昨年9月の北海道胆振東部地震で選手寮が被災した鵡川が、伊達緑丘を13-0で下し、震災後初勝利を挙げた。17年夏以来5季ぶりの初戦突破となった。

14安打13点と豪快な野球で、再起への一歩を踏み出した。8点差で迎えた6回1死満塁、佐々木隼斗捕手(2年)の打球は、きれいな弧を描いて左翼スタンドへ飛び込んだ。「つないでくれたみんなのために、絶対に打とうと思って打席に立った」。公式戦1号となる満塁弾で突き放すと、この回、長短4安打に四球を絡めて一挙6点を奪い、6回コールド勝ちにつなげた。

OBで02年センバツ初出場時のエース、鬼海将一監督(35)にとっても就任後初白星。「応援してくれる人たちのパワーが、この勝利につながった」。スタンドには町のシンボルカラー、黄色いTシャツ姿の保護者や町民約70人が集まり、声援をおくった。震災から8カ月。支えてくれた人たちに、冬を越え、たくましく成長した姿を披露した。

震災直後に行われた昨秋の初戦は苫小牧工に2-6で敗れた。その後は、被災地の物資運びや、民家の除雪作業などのボランティア活動に精を出した。主将の内海陸(3年)が中心となり「できることがあれば何かやりたい」と申し出たことがきっかけだった。鬼海監督は「震災を経験して選手たちは変わった。失ったものだけじゃなくて、成長のために大事な時間になったのかもしれない」と振り返った。

この日3安打3打点の西村天辰(2年)の父美宏さん(44)は「息子が寮から帰省したとき、身の回りの整頓や、お年寄りへの気遣いがしっかりできるようになっていて、驚いた」と言う。避難所生活やボランティア活動を通した社会との温かい触れ合いは、10代の高校生を、1人の大人へ変える、大きなきっかけになった。

3月下旬の和歌山遠征前には、甲子園でセンバツ開会式を見学。目指す目標を、あらためて心に誓い合った。内海主将は「1つ勝てたことはうれしい。でもここはスタート。甲子園に出ることこそが、僕らの恩返しだと思っている」と言う。大きな試練を乗り越えよみがえった鵡川が、2年ぶり春全道切符をつかみ、夏へ弾みをつける。【永野高輔】