1点を追う9回。尼崎工・野尻伸弥内野手(3年)の打球が右中間を抜ける。1-1。二塁塁上でガッツポーズすると防具回収に来た双子の弟、雄弥内野手(3年)が「まだ勝ってないぞ」とぴしゃり。兄は決勝のホームを踏み、土壇場で逆転勝ちした。

「双子なのでどういう気持ちか分かる。お互いに助け合ってます」と弟は言う。兄は4番三塁、弟は2番二塁。試合後は笑顔で肩を寄せ合った。野尻家にとって格別な勝利だった。3年前は想像できなかった。

兄伸弥は中2の冬に腎炎で入院。年明けに退院したが、すぐに今度はネフローゼ症候群と診断を受けた。たんぱくが尿に出る難病。合計2カ月入院。面会もほとんどできなかった。

再入院時にステロイドの投与が決まり「骨がもろくなるから運動はできない」と説明された。兄弟でプレーしていたヤングリーグ兵庫伊丹は退団。高校野球もあきらめた。ただ、中3夏に回復すると、弟とともに尼崎工野球部入りを決めた。1年以上のブランクに加え、高1の夏まで通院するハンディもあったが、完治に近い「寛解」の判断が出た。今では何ともない。

母久美子さん(47)は「1度はあきらめた野球がまたできる喜びがあったでしょう。半年間も病院にいたので、人生の勉強ができたと思う」と目を細めた。“やんちゃ”だった弟も、兄の苦労とともに成長。泥だらけでプレーする2人の姿が母にはまぶしかった。【柏原誠】