今年もミラクル・カナノウだ。昨夏の甲子園で旋風を起こし準優勝した金足農(秋田)が、サヨナラ勝ちで夏1勝を挙げた。

土壇場9回に2点差をはね返す、昨夏をほうふつとさせる逆転劇。昨年のエース吉田輝星(現日本ハム)の1年時と同じ背番号「20」を背負う4番の山形琉唯(るい)外野手兼投手(1年)が同点2点打を放ってチームを蘇生させた。新チームになってからの勝利は昨秋の秋田大会での1勝のみ。あの甲子園決勝から327日。再びあの舞台へ-。第1歩を踏み出した。

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土俵際まで追い詰められていた。2-4で迎えた9回裏、先頭の三浦壮磨外野手(3年)が中前打。ここで秘策、バスターエンドランが飛び出した。一走がスタート。沢石和也捕手(3年)がバントの構えから2球目に食らいついた。右前打で無死一、三塁。盛り上がるベンチを背に、1年生4番の山形が、同点に追い付く2点適時二塁打を決めた。3連打で試合を振り出しに戻し、なお2死三塁として、最後は嶋崎響己(ひびき)外野手(3年)が左前へのサヨナラ打で決着をつけた。

昨夏の甲子園は3年生9人で戦い抜いた。今夏の選手に甲子園でのプレー経験者はいない。そんな“新チーム”の危機を、初の4番に座った山形が救った。「2、3番が塁に出てチーム全員が盛り上がり流れができた。後ろにつなぐ意識で直球を強くたたけた」とうなずいた。5回からは2番手としてマウンドへ。被安打2の1失点で逆転へ流れも作ったが「最初は高めに浮いてしまった。常に低めに集められるようしたい」と反省。そして「吉田輝星選手のようになりたい」と力を込めた。 中3だった昨夏。金足農の快進撃に胸が躍った。漠然と進路に迷っていたが、「このチームで甲子園で優勝したい」と思うようになった。憧れは吉田輝。入部後、その先輩が1年時の夏に背負った背番号20を託された。中泉一豊監督(46)は「(山形は)直球のキレ、制球力もある。(番号に)期待を込めた」と明かす。

サヨナラ打を決めた嶋崎は「今までやってきた仲間と、もっと一緒にやりたかった。焦ったら負け。最後まで全力で泥くさくやれば大丈夫だと思った」と胸を張った。中泉監督は反省を忘れず、「変化球中心の投球を捉えきれなかった。エンドランは練習してきた形。次につながったが課題は多い」と引き締めた。今年も再び「カナノウ旋風」を巻き起こせるか? 【山田愛斗】

◆18年夏のカナノウ旋風

7月15日 秋田大会2回戦の秋田北鷹戦で、吉田が9回16奪三振完封。最速150キロで脚光を浴びる

同24日 決勝で明桜を完封し甲子園へ。吉田は「大阪桐蔭とやりたい。目標は4強超え」

8月8日 1回戦の鹿児島実戦で吉田が14奪三振、1失点完投

同14日 大垣日大を破り16強。「シャキーンポーズ」「全力校歌」も話題に

同17日 金足農の「生き物係」こと高橋が8回に逆転3ランで横浜撃破。秋田朝日放送のツイッターが事故級の興奮でつぶやき連発

同18日 伝説となった逆転サヨナラ2ランスクイズで4強。学校で飼育している豚が9匹の子豚を生み、二重の喜びに

同20日 日大三を2-1で破り初の決勝進出。社会現象に。JALは決勝に向け秋田~伊丹臨時便を決定。秋田出身の菅官房長官も会見で「すごくうれしい」

同21日 決勝で大阪桐蔭に2-13で敗れた