近江（滋賀）を引っ張った有馬諒捕手（3年）は完敗を認めた。号泣する林優樹投手（3年）とは対照的に涙を見せなかった。

滋賀大会無失策の守りのチームが、まさかの6失策。その始まりは有馬だった。2回2死から平凡な捕手前への打球を一塁悪送球。最初のピンチを招いた。

「肩の調子が良すぎて、抜けてしまった。（普段は）ミスしないチームだから、ミスから崩れてしまった」と責任を痛感。負の連鎖を止められず「これが甲子園だなと。できていたことができなくなる。地方大会と比べて甲子園は何かが起こる場所。林はベストピッチだった。こたえられなくて申し訳ない」と振り返った。

ただし、その「まさか」を引き起こしたのは東海大相模でもあった。

2回、有馬の失策のあとは二盗成功。続けて三塁にもスタート。何とかアウトにしたが、守備陣は浮き足だった。林が狙い通りに内野ゴロを打たせても、すべての打者が一塁に全力疾走。これが内野手の焦りを生んだ。

有馬は「走塁の圧力は経験したことがなかった。やりにくかった。捕手の自分も、内野手も重圧があった。準備不足でした」と認めた。

昨春は星稜（石川）にサヨナラ負け。昨夏の準々決勝では金足農（秋田）に逆転サヨナラの2ランスクイズを決められ、有馬は本塁に突っ伏して動けなかった。そこから出発した林との「日本一のバッテリー」への道。昨年の甲子園を知る観客からは誰よりも大きな声援が送られた。

8回2死満塁で打席に立つと、地鳴りのような声援。結果は押し出し四球。これが唯一の得点になった。「金足農に勝るような後押しをもらった。一番楽しい1打席でした」と感謝した。

春の近畿大会で優勝し、滋賀県勢初の甲子園制覇の期待を背負った今夏、夢は初戦で破れた。黄金バッテリーの女房役は「林が速球派だったら、自分の持ち味は出なかった。技巧派だったからここまで成長できた。林と出会えて感謝です」と笑みを浮かべた。