創志学園(岡山)は今夏限りで退任する長沢宏行監督(69)の「ラストゲーム」になった。5点差がついた9回攻撃前、選手に「粘り強く自分たちの野球をするぞ」と伝えた。敵失で1点をかえした。心が揺さぶられる敗戦になった。指揮官は試合後、振り返った。

「弱いチームでしたけど最後の最後まであきらめない姿勢はほめてやりたい」

チームの生命線でエース岡村洸太郎投手(3年)が誤算だった。3回までは速球も140キロ台で走り、無失点と順調な滑り出し。4回、味方失策から走者を出し、先制適時打と犠飛で2点を失った。5回も適時打で2点を失った。春季大会や夏の岡山大会もほぼ1人で投げてきた。5回まで4失点が重くのしかかった。

「もっとコースを広げて投げたらよかった。外も内も食らいつかれて(野手の)間のヒットが多かった。1試合でも長くやって、監督さんを日本一にしようと言ってきた。初戦で負けてとても悔しい。申し訳ない気持ちがあります」

岡村は1年冬、長沢監督に声を掛けられた。「横で投げてみたらどうだ」。投球動作が横回転だった。見抜いた指揮官の助言が奏功し、最速145キロ右腕に成長した。この日は最後まで投げきった。8回7失点完投は信頼された勲章だ。

長沢監督は96年アトランタ五輪で女子ソフトボール日本代表ヘッドコーチを務めた異色の経歴を持つ。神村学園(鹿児島)の監督として05年センバツ初出場で準優勝。10年から創志学園監督に就任し、創部1年目でセンバツに導いていた。西純矢(現阪神)を擁した18年以来、4年ぶりの甲子園白星をつかめなかった。後任に元東海大相模(神奈川)監督の門馬敬治氏(52)の就任が決まっている。

指揮官は今後の指導者人生を問われ「年齢と情熱は違う。まだ枯れていない。どこかやれるところがあれば。生徒からエネルギーをもらっている。全国優勝はおこがましいけど、もっと強いチームを作りたい。うまくなりたい子どもたちの手伝いをしたい」と前を向いた。「勇退」の言葉は使わない。ほとばしる闘志は、まだまだ野球に向かっている。【酒井俊作】