甲子園初勝利への秘密兵器は「酸素カプセル」だ。第94回全国高校野球選手権(8月8日開幕、甲子園)の北北海道代表・旭川工は24日、学校体育館で行われた全国大会壮行式に臨んだ。チームで故障予防や疲労回復のため、2年前に導入した酸素カプセルを甲子園遠征に持ち込むことを決定。今月下旬にコンテナで搬送し、大阪入りする8月1日から使えるようにする。使用頻度の多いエース官野峻稀(3年)にとっては、心強い味方になりそうだ。

 壮行式後の練習中、旭川工・佐藤桂一監督(55)がつぶやいた。「酸素カプセル、持っていきます」。帯広開催の北北海道大会にも持ち込み、効果を発揮していた。あらかじめ音更町の宿舎へ搬送。エース官野は毎日約50分間、入り続けた。「投げた翌日の疲労度が違います」。旭川地区予選で2試合13イニング、北大会では全4試合33イニングを1人で投げ抜いた。甲子園を引き寄せた好投には、酸素カプセルによる疲労除去の要因があった。

 野球部独自で保有し、北海道の代表が甲子園まで“帯同”させるのは極めて珍しい。高校球界では06年夏の甲子園で、駒大苫小牧と決勝再試合を戦った早実(西東京)の斎藤佑樹投手(現日本ハム)が使ったことで話題になった。今でこそ一般的になったが、官野は「いつも通りの準備をして、いつも通りのコンディションで試合に臨めるので、助かります」とニンマリだ。

 導入したのは2年前。OBの西武武隈祥太投手が3年生だった07年5月下旬に、左人さし指を骨折したのがきっかけだった。酸素カプセルで治療した結果、回復が早く、1カ月後の旭川地区予選に間に合った。佐藤監督は故障予防などにも役立つことを知り、3年後に購入に踏み切った。

 チームは過去4度、夏の甲子園出場も、まだ勝利がない。初出場だった91年2回戦の鹿児島実戦の8回に挙げた2点を最後に、3試合28イニング無得点に終わっている。敗因には技術面だけでなく、慣れない大阪での遠征生活、暑さによる心身の消耗などがあった。そんな不安を少しでも取り除く手段として活用する。主将の生田雄也捕手(3年)は「監督さんに勝利の校歌をプレゼントしたい。勝つためには、得点を入れないとダメですよね」と話す。足かけ21年で「5度目の正直」。万全なケアで、甲子園初白星をもぎとる。【中尾猛】

 ◆酸素カプセル

 1人が寝て入れるカプセル状テント。加圧ボンベで内部気圧を通常の1・2~1・3倍にし、清浄な空気を送り込んで効率的に酸素を体内に送り込む。02年サッカーW杯日韓大会前、イングランド代表MFベッカムが使用し「ベッカムカプセル」とも呼ばれた。08年にドーピング違反の可能性が指摘されたこともあるが、スポーツ界全般で使われている。