<全国高校野球選手権:仙台育英6-3飯塚>◇15日◇2回戦

 1発で流れを変えた。仙台育英(宮城)が飯塚(福岡)に逆転勝ち。3回戦に進出した。3点を先制された直後の2回、先頭打者の早坂和晋(かずゆき)右翼手(3年)が左越えに公式戦初アーチ。3回にも同点の犠飛を放ってチームを乗せた。佐賀北との1回戦に続いて2ケタ安打で快勝し、3回戦へ駒を進めた。

 狙っていた。2回、先頭打者の早坂は「とにかく流れを変えよう」と右打席に入る。2ボールとなり「(左方向への)風が強いし、ランナーもいない。カウントも有利だったので」と、内角高めの直球をフルスイング。読み通りだった。高々と舞い上がった打球は、浜風に乗ってレフトスタンド中段へ飛び込んだ。二塁ベースを回ったところで小さくガッツポーズ。「打った瞬間、行ったと思った。生涯最高の当たりでした」と満面の笑み。佐々木順一朗監督(52)も「あの1発が、チームを『行けるぞ』という気分にしてくれた」と絶賛した。

 もう怖くない。3月末の茨城遠征で、右オーバースローの投手が投げた球が顔面を直撃。そのまま救急車で病院に運ばれた。前歯3本が折れ、唇の内側を縫った。以降は「歯に振動を与えると怖くなる」と走ることもできなくなった。4月末の練習試合で復帰したが、足が震える。「投げた瞬間に、ボールから目をそらした。打席で泣いてしまった」。すべての右投手に対して、死球の悪夢がよみがえる。外角球でも体が自然に逃げた。しかし、チームメートにも弱いところは見せたくない。練習後、理由は言わず「投げてくれ」と打撃投手を頼んだ。闘い続けた恐怖心を完全に振り払ったことを証明する特大弾だった。

 豪快な1発のあとは、チームのためにつないだ。1点差に迫った3回1死二、三塁。第1打席で内角球を打ったことで、外角を攻められた。「右方向に外野フライを打てば同点になる。二塁ランナーも三塁に行ける」。狙い通りに外の直球を右翼へ。犠飛となり、同点に追いついた。練習試合に出られない間、グラウンドの片隅に座り「ずっと相手の配球などを見ていた」。復帰を目指しながら、ひそかに磨いていた観察力が生きた。続く渡辺郁也投手(3年)が右越え二塁打を放ち逆転に成功。4回にも暴投と柏木勇人二塁手(3年)の適時二塁打で突き放す。早坂が引き寄せた流れは、最後まで相手に戻ることはなかった。

 ホームランボールは両親に贈る。中学から寮に入って6年間、野球をやらせてもらった感謝の気持ちだ。顔面に投球が当たったときも「夜中なのに、親は急いで車で茨城に駆けつけてくれた。仲間も復帰するのを待っていてくれた」。右投手も、内角球も克服した。支えてくれた家族、チームメートへの恩返しはまだまだ続く。【鹿野雄太】