<高校野球北北海道大会>◇23日◇決勝

 11年ぶりの夏だ!

 旭川実が9-4で初出場を狙った武修館に快勝し、夏3度目の甲子園出場を決めた。2回表に小椋航平右翼手(3年)がスクイズを決めて先制すると、中盤には長打と犠打を絡めて大会屈指の右腕上田昌人(3年)を攻略。準決勝までは2点差以内の接戦だったが、計13安打8犠打で大量点に結びつけた。北北海道117校の頂点に立ったチームは、夏初戦負けなしの夢舞台でミラクル再現を目指す。

 マウンドに向かって、内外野から、ベンチから、選手が走りだした。旭川実のエース鈴木が天に向かってこぶしをかざす。18人が集まり、抱き合った。夢じゃない。甲子園だ。ナインの歓声が旭川スタルヒンにこだました。チームを引っ張ってきた細坂主将は泣いていた。「みんなの勝ちたい気持ちがここに出た。迷いなく実業の野球ができた」。接戦の連続の末、つかんだ優勝だからこそ、感動も大きかった。

 お祭り騒ぎはその後も続く。ベンチではなぜかナインによる「ハンコ」コール。実は坂口新部長(26)が、甲子園出場を決めたら交際中の女性と結婚すると選手に約束していた。ベンチに婚姻届を持ち込んでいた。その場で判を押すことはなかったが、選手たちの喜びはさらに広がった。

 「7・23」は鬼門だった。08年夏の準決勝、09年準々決勝、いずれも7月23日に敗れていた。三度目の正直でつかんだ勝利はチームの「進化」を物語っていた。昨秋全道でセンバツ8強入りした北照に0-7の8回コールド負け。伝統の守りと機動力の野球だけでは限界を感じた。オフのトレーニングでは打撃面に重点を置いた。

 迎えた春季大会は地区から全道までの5試合すべてノーサイン。岡本大輔監督(37)は「失敗も覚悟の上で、どうすれば効率よく点数がとれるかを選手たちに理解してほしかった」と振り返る。1回戦の稚内大谷戦は1-3で敗れたが、選手は打撃力だけではなく、「勝負強さ」の必要性も感じた。局面に強くなるため、9回2死の場面で攻守の練習を行うなど、集中力を研ぎ澄ましてきた。

 その成果が夏に表れた。2回表1死一、三塁。1番小椋が始めからバントの構えをし、そのまま犠打。三塁走者は迷わず本塁に走った。相手三塁手の意表を突き、スクイズが決まった。スタートは打球の転がる位置によって実行する。選手の判断に任せるプレーだった。この回だけで犠打、セーフティー含めて4度バント。武修館の好投手上田を揺さぶり先制点を挙げた。

 中盤以降は打線にも火が付いた。5、6回は長短打と犠打で3点ずつ追加。試合の主導権を握った。2番久保田は「守って打ち勝つ野球ができた。送るところは送って、その後、打の旭実を見せられた」と胸を張った。

 準々決勝は9回に逆転。準決勝も9回に勝ち越しと、ここ一番で競り勝ってきた。岡本監督は「私が就任してから目標は全国制覇。簡単ではないが、1試合1試合全力を尽くす」。伝統のバント野球を進化させた旭川実ナインが再び、ミラクルを起こす。【石井克】