タイトルよりも日本一になりたかった-。広島鈴木誠也外野手(25)はチームが4年ぶりにCS進出を逃す中、プロ7年目で初タイトルとなる首位打者(打率3割3分5厘)と最高出塁率(4割5分3厘)の2冠に輝いた。今季はFA移籍の丸(巨人)や引退した新井氏が抜けた打線を不動の中軸としてけん引。自身の記録よりもチームの結果を優先してきたが、力及ばなかった。

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初の個人タイトル獲得も、鈴木の表情は厳しいままだった。マツダスタジアムで練習を終えた時点では最終順位は確定していなかった。「もうちょっとうれしいかなと思っていたけど、チームがこういう状況なのであんまり…」。不動の主軸として責任を痛感した上での発言だったが、その後に阪神が中日に勝ったため4年ぶりの4年ぶりのBクラスとなった。

今季は丸(巨人)や新井が抜け、相手からのマークは厳しくなった。特に打線全体が低調だった開幕直後は勝負を避けられる場面も多く、難しい打席が続いた。「最初の方は自分が打たないとという思いが強かった。でも途中からとにかく塁に出ればそれでいい、つないでいこうという意識に戻った。そこを変えられたのは良かった」。自己犠牲をいとわない、これまでのスタイルを貫いたことで成績は上向いた。

出塁率への意識は昨年まで中軸でコンビを組んだ丸の存在が大きい。「もともと出塁率の良さが分からなかったけど、丸さんが出塁を多くしていたので、話をしてもらっていましたし、そういう打者がいい打者なのかなと出塁率にもこだわるようになった」。ただ打つだけでなく、際どいコースを見極めて四球を選ぶ。高い出塁率は得点を生む。チームの勝敗に直結するからこそ、こだわった。

出塁への意識改革がタイトル獲得につながった。112得点はリーグトップ。打者の指標とされるОPS(出塁率プラス長打率)は12球団でただ1人、10割超えだ。「喜ぶのは決まって30秒くらい。来年ダメだったら何も意味がない」。タイトル獲得に一定の達成感を感じつつも、心が満たされることはない。野球は個人競技ではない。チームで勝ってこそ、喜べる。日本一の目標は来季へ持ち越しとなった。チームとして喜ぶため、巻き返しの秋が始まる。【前原淳】