虎のエースを通過点に-。開幕投手有力候補の阪神青柳晃洋投手(28)が、日刊スポーツ評論家の岩田稔氏(38)と投手談議に花を咲かせた。「ゴロキング」や「侍ジャパン戦士」など共通項の多かった先輩と本音を語り合い、開幕投手やシーズン15勝といった目標を公言する理由、ゴロ投手ならではの悩み、エース論を激白。日本を代表する投手への成長を誓った。【取材・構成=佐井陽介】

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岩田氏 評論家として初めての対談です。よろしくお願いします!

青柳 よろしくお願いします! 岩田さん、僕が投げた20日中日戦でテレビ解説していましたよね?

岩田氏 あんな寒い中、よく投げるなと思っていたわ(笑い)

青柳 そこっすか(笑い)

岩田氏 ヤギさんには去年の13勝からさらにもう一段階上がってほしいと思っていて。中日戦では変化球を意識に投げていたね。

青柳 中日戦では福原投手コーチと話して「スライダーとツーシームは禁止」と決めていたんです。去年は投球の7割がスライダーとツーシーム。この2球種をなくしてどう抑えるかをやってみよう、と。僕の場合、スライダーとツーシームではない変化球はストライク率が悪くて、結局は苦しくなった時の真っすぐとなってしまう。そんなパターンをなくすための配球をしてみよう、という話をしてもらいました。それで入りからカーブを投げたり、右打者にシンカーを投げたり、チェンジアップを使ったり、普段なら使わないボールを使ってみました。

岩田氏 めちゃくちゃ良い取り組みやね。この時期にしかできないことだし、それを経験できたらシーズンにも必ず生きてくる。

青柳 スライダーを投げたら100%三振を取れるところでもスライダーは投げられない。そこで右打者にシンカーを投げてみたり、高めの真っすぐを投げてみたり、探り探りやってみました。結果的に1点を取られましたけど、良い練習ができました。

岩田氏 高めの真っすぐを使って打ち取れている姿を見て、今年はさらにやるな、と思った。

青柳 去年は低めだけでしたからね。でも、そうなると終盤はどうしてもしんどくなってしまいますよね。

岩田氏 自分もそうだったけど、ゴロピッチャーは低めにボールを集めてナンボ。でも、低めに集めすぎたら目線が全部下に向いてしんどくなる。そうなった時の高めよな。

青柳 去年は低めに集めて10勝まではできたんですけど、そこからしんどくなった。CSで巨人と対戦した時も、もともとずっと抑えていた打線なのに、低めのツーシームを左打者に左翼へパーンと打たれて、投げるボールがなくなってしまった。スライダーを投げても、結局は目線が低めに来てしまっているからしんどかった。だから、今年のキャンプは高めをすごく意識して練習しています。中日戦ではフライアウトがすごく多かったけど、僕の中ではアウトの取り方が増えたなという感覚です。

岩田氏 「こうすればアウトを取れる」というつながりができているから、めちゃくちゃ良いね。ヤギさんは腕の位置が低いから低めへのコントロールはしやすいんだろうけど、高めは難しいかなと思っていた。

青柳 高めは投げミスがベロンと中に入ってしまったりするんです。それは1番のチャンスボール、一番弱くて打ちやすいボールになってしまう。そうなるぐらいなら、さらに浮く分にはOKというイメージで。そうすれば空振りも取りやすいかなと思っています。

岩田氏 オレもそういうボールを投げたかった…。もう遅いか(笑い)。ゴロピッチャーって、打者の目線が本当に下に集まってくる。そうなると、少し浮いただけでも長打になってしまう。自分も高め真っすぐの必要性はすごく感じていた。だから中日戦のヤギさんの投球を見て、これはいけるわと思った。

青柳 高めが必要だとは去年も常に思っていました。でも、試合で抑えている間は使うタイミングがないんですよ。高めへのボールをミスして打たれたらもったいないという気持ちが勝ってしまって、ゴロで間を抜かれたシングルヒットであれば最悪OK、と。高めに投げミスして二塁打、本塁打を打たれた時、やっぱり低めに投げておけば良かったと後悔するのがもったいないので。結局、去年は1回しか高めで勝負していないんじゃないですかね。東京ドームの巨人戦で(坂本)誠志郎と組んだ時、ピンチで大城さんから高めの真っすぐで三振を取った。あの時、高めの真っすぐはやっぱり使えるなと自信になったんです。だから今年は意図的に配球に入れていくつもりです。低めの左右だけでなく、高低左右を全部使えるようにする。それで中日戦のようにカーブも使えれば、少しは奥行きも出ると思うので。

岩田氏 初球にあのカーブを投げられたら、打者は迷うと思うわ。

青柳 僕の場合、ここ数年のイメージはツーシームかスライダー。それより遅いボールは多分打ってこないだろうと思うので。

岩田氏 自分も最後の方はツーシームかカットボールのイメージだった。そこでカーブを投げたら、めちゃくちゃ楽になる。

青柳 カーブが1球入るだけで全然違いますよね。

岩田氏 そういえば、オレはもともとヤギさんがタイガースに入ってきた時から「真っすぐが強いから絶対に勝てるようになる」と言っていたんやで!

青柳 本当ですか!? うれしいです!

岩田氏 去年は東京五輪で日本代表クラスの実力を知ったと思う。すでにタイガースの中ではトップクラスにいるけど、代表でもその位置に行ってほしいなと、個人的には思っている。

青柳 僕、東京五輪で人生で初めて日本代表に入ったんです。岩田さんも分かると思うんですけど、「えっ、僕が行っていいんですか」というノリだったんですけど、周りを見てみたらやっぱりちょっとレベルが違いました。楽天の田中将大さんはボールの質、コントロールが違うし、中日の大野雄大さんもブルペンからボールに強さがあって間違えない。僕みたいにアバウトじゃない。広島の森下暢仁にしても制球ミスがなかったり、間合いの変え方がうまかったりする。あらためて近くでトッププレーヤーを見た時、自分はまだまだだなと思いました。

岩田氏 分かるわ~。自分も09年WBCの時はそんな感じだったから。「荷物持ちします」みたいな感じで(笑い)

青柳 それに僕の場合、東京五輪は先発じゃなくて中継ぎで呼ばれているじゃないですか。変則投手だから呼ばれたんだと思う。次に呼ばれる時はちゃんと先発として呼ばれたい、という気持ちはありますね。

岩田氏 侍ジャパンのエース格になったヤギさんを見てみたいな。そういえば、今年は開幕投手の有力候補でもあるね。そもそも何年も前から「開幕投手を狙う」とずっと言い続けてきたことが偉いなと思う。

青柳 阪神って注目度が高いチームなので、そういうことを言いづらい雰囲気ありますよね?(笑い)

岩田氏 それを平気で言ってしまえるヤギさんのメンタルがすごいなと思っていた(笑い)

青柳 (爆笑)。やっぱり言わなきゃダメかなと思っていたんです。

岩田氏 自分もそう思う。言葉はどんどん発していかないといけない。

青柳 自分の場合、「今年は13勝します」という目標を最初、矢野さんへの年賀状に書いたんですよ。初めて先発ローテを回り終えた翌年、20年のことです。でも去年に関してはあえて公の場でも言うようにしました。結局、監督やコーチ、先輩だけに伝えても、逃げ道が出来てしまうなと思って。監督に言っただけなら10勝に届いたら「まあ10勝したしな」という気持ちになってしまう。でもテレビやファンの前でも言えば「まだ3つ足りないよ」と思われるし、自分の中でもかなえないと情けなくなる。それでメディアを通しても言うようにしたら去年目標を達成できたので、これからもどんどん言っていくつもりです。

岩田氏 逃げられなくなるからね。自分も全然野球とは違うけど、入団した時に「1型糖尿病患者の希望の星になる」と言って逃げ道をなくした。その目標に負けないように自分も行動しようと頑張った。

青柳 自分を律する、じゃないですけど、いい方向に行きますよね。だから今年も開幕投手、15勝という目標を公言しています。開幕投手でいえば、西(勇輝)さんみたいに実績があって何回も経験している方ならやって当たり前となるけど、僕みたいにドラフト5位で入った選手がタイトルを取った次の年に開幕投手になれれば、下の後輩も感じるものがあると思う。そういうことも考えて頑張りたいです。

岩田氏 じゃあ、全部かなえてもらおう。そうなれば「タイガースといえば青柳」となる。

青柳 そうなるのが目標です。タイガースでは、その年に結果を出した投手がエースと呼ばれがちですよね。今は去年タイトルを取った僕をエースと呼んでくれる方もいるけど、エースって1年で決まるものではないと思うんです。僕が入った時はランディ(メッセンジャー)がずっと開幕投手をやっていたし、能見さんたちの姿も見させてもらってきた。何年かたった時に、阪神といえば鳥谷さん、投手でいえば能見さんと言われたような人になりたいなと思います。

岩田氏 エースといえば、数年前なら広島のマエケンとか、そのクラスになってくる。ヤギさんもマエケンや巨人の菅野とか、そのクラスになってほしいな。

青柳 なりたいですね。阪神のエースって、どうすればなれますかね?(笑い)。

岩田氏 勝つ!

青柳 やっぱり勝ちがすべてですか。

岩田氏 勝っていくことがファンの方が望んでいることだし、勝つことで優勝に近づけるから。自分はなかなか勝てなかった悔しさがあるから余計にそう思う。ヤギさんには発言を実現して、タイガースを優勝に導いてほしい。優勝したら、オレもビールかけに入ってもいいかな?(笑い)

青柳 岩田さんは現役時代、1度も優勝していないんですよね?

岩田氏 ゼロ…。WBCだけ。あの時はお客さんとして行かせてもらったようなものだから(笑い)

青柳 僕の東京五輪と一緒っすね(笑い)

岩田氏 なんか、境遇が似てるな(笑い)

◆青柳晃洋(あおやぎ・こうよう)1993年(平5)12月11日、神奈川県生まれ。川崎工科-帝京大を経て、15年ドラフト5位で阪神入団。変則サイドからの投球でエース格に成長。昨季は13勝で広島九里と並んでリーグ最多勝、6割8分4厘で最高勝率にも輝いた。今季推定年俸は1億2000万円。183センチ、83キロ。右投げ右打ち。