阪神選手会長の近本光司外野手(28)は、リーグ制覇が決まった瞬間、センターで歓喜を爆発させた。6回に右前打を放ち、大山の犠飛で先制のホームを踏んだ。入団5年目以内で通算764安打。巨人長嶋を超えて単独2位だ。8回には二ゴロで相手失策を誘い、貴重な4点目を挙げた。

「あ~よかった。よかった…。(胴上げは)よく上がってんなあって思ってました(笑い)」

7月2日巨人戦で右脇腹に死球を受け右肋骨(ろっこつ)を骨折。肺を包む胸膜が傷つくほどの重傷だった。「折れててもできる」。早期復帰しか考えていなかった。だから、20日後にはグラウンドに立った。

9月3日ヤクルト戦。同じような場所に死球を受けたが打撲の診断で済んだ。骨折箇所から約3センチ、ズレていたから助かった。耐えた。2試合欠場し、スタメンに戻ってきた。

数センチが命運を分ける。バットでも同じだ。その勝負に勝つためにストイックどころか“変態”になれる。衝撃の発言が飛び出したのは、7月下旬のことだ。

「人間も魚みたいなもんやからなあ」

真顔で言った。

関学大3年時から「ゆるトレ」に取り組む。遠征先のホテルで、あおむけに寝転んで足で山をつくり、背中を左右に揺らす。まるで魚が泳ぐかのようにゆらゆら、と。人類の祖先である魚類のような動きは交感神経を鎮め、人間本来の自然治癒力を高めてくれる効果があるという。人間=魚。常人には理解しがたい発想が、野球人生の核にある。

すでにキャリアハイの打点を挙げるなど、ポイントゲッターとしても機能した。涙の終戦から10カ月。骨太な猛虎の先頭に近本がいる。【中野椋】