変化を恐れないこと。そんな決意が担当する2つのスポーツで聞かれた秋だった。

ボクシングの村田諒太(32=帝拳)。10月20日(日本時間21日)に米ラスベガスで行われたWBA世界ミドル級タイトルマッチ、2度目の防衛戦で同級3位ロブ・ブラント(米国)に敗れて王座陥落した。日本人2人目のミドル級王者は1年でベルトを手放すことになったが、試合から一夜明けた会見では「練習も100%できましたし、こうしておけば良かったというのはない。過程においてやってきた自信はある」と後悔はないとした。

過程、その中でつぶやいた言葉がある。「諸行無常ですよね。物事に同じことはない。常に変化しないと」。決戦まで残り1カ月を切った時期だった。ミット打ちでひたすら右ストレートの距離感を確かめていた。「相手を倒すパンチって、だいたい振り切ってないですよね。振り切ったところで当たると力が伝わらない。考えれば当たり前なんですけど」。腕が伸びきった瞬間にインパクトを迎えても、押し出す力が欠ける。最も効果的なパンチは軌道の途中、振り抜く余力を残した地点で当てること。 「何でこんな当たり前のことを今更やっているんですかね」。その自嘲気味の言葉には失望の気持ちはなかった。自分のだめ出ししながら、どこか向上の余地を楽しむかのような、自分の現在地点を冷静に捉えられている事を、とても前向きに考えているように感じられた。それが印象的だった。

敗戦から一夜明け、腫れ上がった目をサングラスで隠し、会見する村田(2018年10月21日撮影)
敗戦から一夜明け、腫れ上がった目をサングラスで隠し、会見する村田(2018年10月21日撮影)

プロレスラーの内藤哲也(36)。新日本プロレスのユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)」のリーダー。随一の人気を誇る男が最近口にしてきた言葉がある。「一歩踏み出す勇気」。4月29日、震災から復興しようとしていた熊本大会のリング上で語ったフレーズだった。「変わらないこと、諦めないことはもちろん大事。でも、変わろうとする思い、変わろうとする覚悟、そして、一歩踏み出す勇気も俺は大事なことじゃないかなと思います」。そこから時が経ち、その進言が自らに跳ね返った。

7月の米ロサンゼルス大会でメンバーの高橋ヒロムがけがを負い、長期欠場することになった。そこからL・I・Jは4人で戦ってきたが、ある決断をした。「ただ待つわけでなく、一歩踏み出すことも大事なんじゃないかなと思いました。4人で待つのではなく、5人で高橋ヒロムの帰りを待つ。つ・ま・り、新たなL・I・Jとして、高橋ヒロムの帰りを待ちたいと思います」。そして10月8日、両国大会で第6の男、ドラゴンゲートで活躍してきた鷹木信悟の加入が発表された。新メンバー加入でまたどう変化がもたらされるのかが注目されている。

内藤哲也(2018年7月13日撮影)
内藤哲也(2018年7月13日撮影)

トップ選手の中には、現状維持は後退という考えの選手が多い。その覚悟が人を魅了する姿を生み出している。【阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」