あっと驚く照ノ富士(28=伊勢ケ浜)の幕尻優勝で幕を閉じた7月場所。その照ノ富士が再入幕したことで、7月場所番付で幕内の前頭11枚目以下に大関経験者が4人も名を連ねるという、特異な現象が起きた。西11枚目の栃ノ心(32=春日野)、東13枚目の高安(30=田子ノ浦)に、同14枚目の琴奨菊(36=佐渡ケ嶽)と東17枚目の照ノ富士だ。

「大関から陥落してまで相撲を取るのはどうか…」。潔さを良しとする角界にあって、そんな声が親方衆から漏れたこともある。皆勤した1月の初場所で引退した、元豪栄道の武隈親方(34=境川、引退時は33歳)は、12日目で負け越しが決まり大関からの陥落が決まった時点で腹をくくり、引退を決意したと後に語っていた。「さすが“男境川”の弟子だ」。そんな声もささやかれた。

唯一、番付降下のない横綱も厳しい立場にいると思うが、公傷制度がなく現行制度で2場所連続負け越しで陥落する大関も、厳しい選択を迫られる。現に照ノ富士も、大関陥落が決まった直後、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)に何度も引退を申し出たという。やはり現役続行を“邪魔”するのはプライドのようで、続行した大関経験者も前述の「潔さ」との葛藤があっただろう。

ただ、周囲から多少の好奇の目で見られようとも、続行を決めた大関経験者には期待をしたいし、全盛期の相撲を取り戻してもらいたいと思う。気力や体力の衰えで落ちたのならともかく、ケガや病気が原因で陥落したのなら、治せば復活の道は開ける。それは照ノ富士が実証してみせた。

平幕の下位とはいえ7月場所では、優勝の照ノ富士はじめ栃ノ心、高安は2ケタ勝利を挙げ、現役最年長関取の琴奨菊も7場所ぶりの勝ち越し。それぞれ存在感を見せた。照ノ富士の復活Vを号砲に、大関経験者の下克上が始まる-。予定される9月の秋場所(13日初日、両国国技館)では、彼らの生きざまとともに、そんな逆襲劇にも期待してみたい。【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)