大関照ノ富士(29=伊勢ケ浜)は、白鵬との全勝対決に敗れて優勝こそ逃したものの、事実上、横綱昇進が決まった。審判部は八角理事長(元横綱北勝海)に、昇進を審議する臨時理事会の開催を要請。理事長も横綱審議委員会へ諮問することを決めた。17年初場所後の稀勢の里以来となる横綱誕生は確実。21日の秋場所番付編成会議後に開く理事会で「第73代横綱照ノ富士」が正式に誕生する。

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令和初の横綱が誕生する。照ノ富士は3場所連続5度目の優勝こそ逃したものの、14勝1敗の優勝次点。昇進を審議する臨時理事会の開催も決まった。2年半前は序二段にいた男が、歴史的な綱とりを成就させた。

激しい一番となった白鵬との全勝対決には敗れた。花道を引き揚げる際は悔しさを押し殺すような表情を見せたが、リモート取材では「見ている通り、自分が弱かっただけ。出し切って負けてる。まだ弱い」と落ち着いた表情だった。

満身創痍(そうい)の中で最高位を射止めた。両膝のケガや内臓疾患などを乗り越えてきたものの、照ノ富士の膝には、半月板がほとんどない。途中休場した昨年秋場所時点で、四股も満足に踏めない状況だった。手術という選択肢もあるが、メスを入れれば本場所に出られない。ここ1年は場所が終盤に近づくと、痛みが増していく。そんな中でも言い訳は一切ない。「場所ごとにちょっとずつ良くなっている感覚がある」と、前だけを見ている。

今場所は15日間全て違う化粧まわしを締めた。横綱土俵入りでは露払い、太刀持ちと三つぞろいの化粧まわしを使う。実質、この日が最後になった幕内土俵入り。贈ってくれた後援者らへ、感謝の思いを示すように臨んだ場所だった。

稀勢の里以来、4年以上の期間を経て新横綱が誕生する。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「まだ昇進が決まったわけじゃないから」と言葉を選びつつ「勝ち星を挙げたのは良かった」とたたえた。「照ノ富士」のしこ名は、師匠の「旭富士」、部屋の大横綱「照国」と2人の横綱が由来。師匠が「横綱になってほしいから」と込めた願いが、ついにかなう。【佐藤礼征】

◆横綱になると…

▽収入 月給は大関の250万円から300万円に増額。巡業などの宿泊、日当は1日9500円から1万1000円へ。協会から昇進祝いの名誉賞100万円が贈られる。師匠への養成奨励金も10万円増えて30万円が1場所ごとに支給。引退時の養老金も基本給が500万円増の1500万円に。

▽付け人 大関の3人程度から10人近くに。綱締めなどがあるためで、身の回りの物を入れる明け荷も1つから3つに増える。

▽待遇 負け越しても休場が続いても、地位は下がらない。引退後、5年間はしこ名のまま年寄として、協会に残ることができる。