初日から11連勝で単独トップの東前頭17枚目の尊富士(24=伊勢ケ浜)が、初黒星を喫した。

大関豊昇龍に小手投げで敗れた。新入幕の初日からの11連勝は、1960年初場所の大鵬に並ぶ最長だが、記録更新はならなかった。それでも唯一、2敗だった大の里が敗れ、2差は変わらず半歩前進。早ければ14日目にも初優勝が決まる。新入幕優勝を果たせば、1914年(大3)5月場所を、所要11場所の史上最速で制した両国以来、110年ぶりの快挙と同時に所要9場所の最速優勝となる。

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支度部屋に戻った尊富士は、飾らずに「あー、クソッ!」と、悔しさをあらわにした。相手は大関で自身は新入幕。番付の違いなど戦う前から分かっている。ただ、同学年で最も出世している豊昇龍に、ただただ勝ちたかった。だからこそ心の声が漏れた。「見ての通りです。(緊張は)なかった。しょうがない。勝ち負け、勝負なので」。自らに言い聞かせるように話したが、何度も唇をかんだ。

立ち合いから押し込んだのは尊富士だった。だが勢いよく押し込んだ分、推進力を利用された。左腕を小手に振られ、相手得意の右からの投げで転がされた。昭和の大横綱「大鵬超え」はならなかった。それでも2番後の結びの一番で、大の里が敗れて3敗に後退。2差の相手は4人に増えたが、110年ぶりの新入幕優勝に向けて、大きく状況は変わらない。2差のまま残りが4日から3日に減った分、半歩前進した形だ。

敗れたが闘志は消えず、初優勝を目指した伊勢ケ浜部屋の兄弟子たちが苦しんできた、単独トップの重圧とは無縁の様子だ。昨年春場所で翠富士は初日から10連勝したが、終盤戦で5連敗。同秋場所で熱海富士は11日目を終えて10勝1敗だった。どちらも単独トップに立っていたが、逆転された。今場所、2人は支度部屋が一緒になると、年上の翠富士は冗談を交えてなごませ、年下の熱海富士は励まし、後押ししていた。

さらに同じく青森県出身の錦富士には、体のケア方法などを教わっている。錦富士も新入幕場所で敢闘賞と活躍した。尊富士はかねて「やっぱり、伊勢ケ浜部屋っていいですよね。伊勢ケ浜部屋でよかった」と、しみじみと語っていた。同じ20代の身近な兄弟子たちが、はね返された自らの経験を伝え、足りなかったものを伝授し、今場所の尊富士の快進撃を支えた。この日は敗れたが「自分の相撲を取るだけ」と気合十分。序ノ口から出世してきた原石が、稽古が厳しい部屋で磨かれ、大輪の花を咲かせようとしている。【高田文太】