第1回からAKB48選抜総選挙を取材してきた身として、須藤凜々花の件は、賛否はひとまず置き、実にAKBらしい事件だったと思う。

 確かに現役アイドルの、しかも恋愛禁止が暗黙のルールとしてあるグループにいるメンバーの「結婚表明」は衝撃だった。一方で、11年前の結成時から「何でもありのAKB」が、グループのコンセプトでもあった。他のアイドルでは許されない、常識を飛び越えたことの連続で、常に世間を騒がし続けてきた。初恋を週刊誌に撮られてしまい、一時的とはいえ、我を見失い突っ走った20歳のとっぴな行動は、演出やイメージ作りを超えた、総選挙同様の「ガチ」だった。

 CDの購入など、ファンの応援票で成り立つ総選挙の場で宣言したことは、ふさわしくなかったと批判された。ただその論理なら、決して卒業表明もファンが喜ぶ報告とは言えない。スピーチは、感謝を伝える場だが、「自分」を表現する場でもある。もちろん、投票した須藤ファンには同情するが、発言の自由まで制限されるべきではないと思う。結婚宣言で、支持を失い、非難されるのも、全ては須藤の自己責任。乱暴に言ってしまえば、ただ、それだけのことだ。

 もちろん、卒業生や現役メンバーが「グループと総選挙を汚された」と憤るのはもっともだと言える。直後のスピーチで、須藤を否定した高橋朱里や岡田奈々が「アイドルの正義」としてファンの支持を受けた。それもまた、健全な現象といえる。

 AKBは、握手会や総選挙、じゃんけん大会、そしてまれにいる塩対応のメンバーを許容することなど、常に常識を破ることで、唯一無二のアイドルグループになっていった。そして、昔も今も、タブーに挑み続けていることに変わりはない。そうしたことに対し、「正統派」として応援するファンが抗うことも加わって、常に新しい形に発展していくグループが、AKBなのだ。