駆け出し記者の頃から撮影現場にお邪魔する機会が多かったので、映画製作の舞台裏を描いた作品には親近感がわく。

 今でもマイベスト1はフランソワ・トリュフォー監督の「アメリカの夜」(73年)である。撮影合間の雑談でも、酒の席でも、語られるのは映画のことばかり。スタッフ間にあふれる映画愛は洋の東西を問わない。かつてのぞいた現場風景とシンクロして、じわりと染みてくるのだ。

 11日公開の英映画「人生はシネマティック!」は、ドイツ軍の空爆が続く英国で、それでも映画作りを諦めなかった人たちの物語だ。題材を聞いただけで、やられてしまう1本である。

 英国情報省で秘書をしていたカトリン(ジェマ・アータートン)は、徴兵された脚本家の代わりに書いたキャッチコピーが認められ、戦意高揚映画の脚本チームに迎えられる。夫は戦場で脚を負傷し、空襲監視員の薄給。カトリンは昇給することを単純に喜ぶ。

 だが、プロ意識の強い脚本チームやベテラン俳優は「素人」の彼女に冷たい。脚本が政府の意向から外れないように情報省から派遣されたお目付け役のような女性もいる。

 それでも、彼女の才能は随所で光りはじめる。的を射た指摘、絶妙のセリフ直し…。周囲はしだいに耳を傾けるようになる。周囲のスタッフの頑なさは、純粋な職人気質のゆえだったことが分かってくる。映画という「絵空事」を形にするためにエネルギーが一丸となっていく。

 映画製作、エンタメ世界のダイナミズムが素人女性の目から語られるところにこの作品の妙味がある。セピア調の映像にまるで彼女のみずみずしい感性が映えるようだ。

 製作中も空爆は続き、歯の抜けるようにスタッフが犠牲になる。スタジオ近くのデパートに爆弾が落ちたときには、カトリンも居合わせた。死傷者と思った人影がマネキンと知ってほっとし、その直後に本物の遺体を発見してぼうぜんとする。それでもスタジオ通いは続く。銃後の日常が生々しい。

 「正義の戦い」の認識があっても、戦意高揚一直線のプロパガンダ映画には、やはり抵抗がある。もの作りスタッフのそんな思いも織り込まれ、戦勝国サイドにもそういう意識があったのだ、と新たな発見をしたような気になる。

 デンマーク出身で、CMやテレビドラマからスタートしたというロネ・シェルフィグ監督は、簡潔なエピソードでするりと当時の状況を切り取ってみせる。照明と色調に凝ってしっかりと時代を浮かび上がらせる一方で、言いたいことはさくさくとふに落ちる。小技の効いた演出だ。

 カトリンを巡るちょっと複雑な恋愛模様があり、英国きっての演技派、ビル・ナイふんするベテラン俳優との父子のようなやりとりもある。撮影現場の緊密な人間関係が人情をあぶり出す。

 さらっと織り込む終盤のどんでん返し。タイトルの意味はそういうことだったのか。ほろ苦くて、ヒザを打つ幕切れだ。【相原斎】