ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「ボーダー・ライン」(15年)には、米国-メキシコ国境の緊張を突きつけるような迫力があった。麻薬戦争を描いた数ある作品の中で異彩を放つゆえんである。

 実録風味を極めた脚本で注目されたテイラー・シェリダン氏が初メガホンを取ったのが「ウインド・リバー」(27日公開)で、少女の殺人事件を発端に、ネーティブ・アメリカン保留地の惨状にスポットを当てている。息も出来ないようなサスペンスを、今回も入念な取材に裏打ちされたリアリズムが支えている。

 山岳地帯にある保留地の自然は美しいが、過酷だ。冬は深い雪に閉ざされる。白い雪に鮮血を際立たせて事件は起こる。殺されたのはネーティブ・アメリカンの少女。第一発見者となった野生生物局のハンター、コリーは、被害者が娘の親友と知って胸を痛める。

 中央政府から「見捨てられた土地」。被害者がネーティブ・アメリカンとなれば、捜査がおざなりになることは目に見えている。表だっては語られない「差別」が浮き彫りになる。

 派遣されたのはFBI捜査官のジェリー。新米だが、やる気は満々だった。周囲の冷ややかな目にさらされながら、にわかコンビとなったコリーとジェリーの捜査が始まる。

 殺害現場の周囲5キロには民家1つ無い。雪山に囲まれた地帯は広大な密室とも言える。点在する住民や山の麓に連なったトレーラーハウスに滞在する施設警備員のグループ…。恵まれない環境にひたすら耐えるネーティブ・アメリカンの集落、行き場を失ってドラッグに溺れる若者や素行優良とは言えない警備員たち…。2人が訪れる先々に米国の「辺境」がある。

 コリー役のジェレミー・レナー(47)の眉間のシワは辺境の地に腰を据えた男の苦悩を象徴するように見える。ジェリー役のエリザベス・オルセン(29)は典型的な「白人顔」。彼女の驚きの表情が無自覚な中流層の「知らなかった罪」を浮かび上がらせる。

 シェリダン監督はリアルな背景に典型的なキャラクターを放り込んで、複雑な問題を分かりやすくひもといていく。登場人物を絞って骨太な人間ドラマを紡ぎながら、終盤には予想外の集団アクションシーンがあって、見せ場は少なくない。「ボーダー・ライン」のときにも実感したが、シェリダン監督には重たい題材を娯楽作品に仕立てる才能がある。上滑りにならないのは、実際に保留地に暮らして、ネーティブ・アメリカンの信頼を得るまでにリサーチを重ねたからだろう。【相原斎】