2年前に公開された「マスカレード・ホテル」は、誰をも疑う刑事がホテルで潜入捜査をするうちに、お客さま誰をも信じるホテルマンに感化されていく物語だった。今月17日公開の「マスカレード・ナイト」(鈴木雅之監督)では、ホテルマンの方が刑事の思考に寄っていくところがミソになっている。

前回と同じ木村拓哉、長澤まさみの異色バディ。冷酷な殺人犯がホテル恒例の大みそかマスカレード(仮面)パーティーに参加するとの密告状で、今回も従業員スペースに臨時の捜査本部が立ち上がり、木村ふんする新田刑事がフロントマン姿で捜査を開始する。

原作の東野圭吾氏は新田の人物像を木村に当て書きしたそうだ。確かに、強めの個性で捜査陣から浮いているようで、不思議に座りよく見えてしまうこのキャラクターを演じられるのは木村だけかもしれない。

何しろオープニングからアルゼンチンタンゴである。新田がダンス講師(中村アン)と切れのいい踊りを披露する。オフの日にタンゴを習う刑事というのはちょっと想像しにくいが、それが説得力を持って伝わるのも木村のオーラのなせるワザということなのだろう。他の俳優さんだったら、本人も見ているこちらもちょっと照れてしまうかもしれない。

先日放送されたTBS系「モニタリング」のチャレンジ企画で、流鏑馬(やぶさめ)を当たり前のようにこなす姿にも驚かされた。さらに、的を2度外した後の最後3度目で的を射抜き、しかもそれがギリギリの端という魅せ方に、この人の持つ不思議な「力」を改めて思わざるを得なかった。

シュッとした感じが全然変わらないその木村も素晴らしいが、この2年で問題作「MOTHER マザー」や「コンフィデンスマンJP」シリーズ2作をこなした長澤の方は、表情の微妙な違いに成長を感じさせる。それが前作より腹が据わったホテルマンに重なって見える。刑事の思考を理解し、謎解きのキモに迫っていく流れも分かりやすい。

小日向文世、梶原善ら個性的な共演陣も前作そのまま。ここに沢村一樹や勝村政信、木村佳乃、麻生久美子、高岡早紀ら多彩な宿泊客が加わって、ほどよく疑いの目を散らしてくれる。

パーティーの年越しまでのタイムサスペンス。岡田道尚氏の脚本がよく練られている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)