ソン・ガンホとイ・ビョンホンの顔合わせに、実力派女優のチョン・ドヨンと変幻自在のキム・ナムギルも加わってキャストは厚い。そして、旅客機内で起きるバイオテロは、地上での変死事件の捜査から政治的駆け引き、国際的な問題も絡んで重層的に進行する。

「観相師」(13年)のハン・ジェリム監督がメガホンを取った「非常宣言」(23年1月6日公開)は、航空パニックというくくりには収まらない肉厚な作品だ。

序盤、テロ犯は空港の当たり前の雑踏に紛れて周到に準備を進めている。その不自然な行動に気付いてしまった少女は運悪く同じ飛行機に乗ることになってしまう。同行する少女の父親(ビョンホン)は飛行機恐怖症で、その理由は副操縦士(ナムギル)との因縁に絡んで、物語の展開に大きく関わってくる。

地上では妻をハワイ旅行に送り出した刑事(ガンホ)が、担当した変死事件とバイオテロの関連にいち早く気付く。そして、テロの標的とされたのはなんと妻の乗った飛行機だった。

前代未聞の航空機バイオテロ事件の指揮を執るのは国土交通相(ドヨン)だが、頭脳明晰(めいせき)な彼女も内外からの圧力にもみくしゃにされる。

展開の早い機内のパニック描写はもちろん、テロ犯が残したマウス実験の映像が有効に使われてバイオテロの恐怖がひしひしと伝わってくる。のっぺりとした表情のテロ犯(イム・シワン)には近寄りがたい怖さがある。

機内と地上で重層的に進行する人間ドラマにもスキが無い。出番の少ない端役もそれなりにキャラが立っていて、ジェリム監督のきめ細かい演出と俳優の層の厚さを改めて印象づける。

終盤はガンホとビョンホンのここまでやるかという大活躍にグイグイ引き込まれる。そして事件後、元大臣となったドヨンは証言台に立たされるが、そこでのひと言が何とも小気味いい。

大事件が起きる度に、したり顔のコメンテーターはお決まりのように「検証して次に備えろ」と言う。が、そんな検証よりは、まずは目の前の危機にどう対処したか。たまたま事件に遭遇し、その献身的な姿勢にもかかわらず報われなかった人々への鎮魂がこの作品には込められている気がした。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

映画「非常宣言」(C)2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.
映画「非常宣言」(C)2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.