現地時間25日(日本時間26日)に第93回アカデミー賞授賞式がロサンゼルス(LA)で開催されました。昨年はコロナ禍で多くの話題作が公開延期となり、映画館の長期閉鎖で映画を劇場で観る機会がほとんどなかった中で、2か月遅れでの開催となりました。そのため、今年は例年よりも地味めな作品が多く、いまいち盛り上がりにかけていたことは否めません。

いまだ世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、出席者を大幅に減らし、目玉の一つともなっていた、楽曲賞にノミネートされた楽曲のパフォーマンスも事前収録で授賞式前に放送するなど、授賞式の構成も大幅な変更が余儀なくされた結果、史上最低の視聴率だった前年から、なんとさらに58%も大幅ダウンする過去最低の視聴率を更新し、視聴者離れに拍車をかける結果となってしまいました。

そんな史上最も注目度が低かった今年の授賞式ですが、ラストに起きたまさかの番狂わせが歴史に残るハプニングとして大きな話題となっています。

2カ月遅れで開催されたアカデミー賞授賞式(ロイター)
2カ月遅れで開催されたアカデミー賞授賞式(ロイター)

アカデミー賞の授賞式では、最後にメインの「作品賞」が発表されるのが常で、受賞作品のキャストや監督、プロデューサーらが壇上に勢ぞろいして感動の中で幕を閉じるというのがこれまで続いてきた歴史でした。昨年も「パラサイト 半地下の家族」が監督賞や脚本賞、そして国際映画長編賞に続いて作品賞にも輝く4冠を達成して大いに盛り上がって終わっていますが、今年に限ってはなぜか発表の順番が大幅に変更され、アカデミー賞の歴史上初めて主演女優賞と主演男優賞の前に早々と作品賞が発表されるサプライズがありました。そしてその結果、大トリとなった主演男優賞で想定外のハプニングが起きたのです。

オスカー最有力候補といわれた「ノマドランド」が作品賞と監督賞を受賞した後、主演男優賞の直前に発表された主演女優賞で激戦を制したのが「ノマドランド」のフランシス・マクドーマンドだったのは多少驚きがあったかもしれませんが、ここまでは大方の予想通りといえます。そして迎えた主演男優賞では、昨年8月に43歳の若さで大腸がんのためにこの世を去ったチャドウィック・ボーズマンさんが、遺作となった「マ・レイニーのブラックボトム」で受賞することが最有力視されていました。直前に英国アカデミー賞を受賞した「ファーザー」で、認知症の父親を好演した対抗馬のアンソニー・ホプキンスの演技を推す声もありましたが、全米俳優組合(SAG)賞にも輝いたボーズマンさんの受賞は鉄板で、故人の俳優としては「ダークナイト」(08年)のヒース・レジャーさんの助演男優賞に続く史上3人目の受賞に期待が持たれていました。

しかし、プレゼンテーターのホアキン・フェニックスが名前を呼んだのはホプキンスで、しかもLAの会場はもとより中継地のロンドンにもホプキンスの姿はなく、受賞スピーチもないままあっけなく3時間に及んだ受賞式の幕が突然閉じてしまったのです。

作品賞と監督賞を受賞した「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督(中央)ら(ロイター)
作品賞と監督賞を受賞した「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督(中央)ら(ロイター)

さすがにこれには視聴者も唖然となり、尻切れとんぼのように終わってしまった授賞式への不満でネットも炎上。特に最後に主演男優賞の発表を持ってきたのは、故人であるボーズマンさんが受賞すれば遺族が感動的なスピーチをして盛り上がる中、クライマックスを迎えるだろうという主催者の演出意図が誰の目にも明らかだっただけに、批判の声が高まっています。SNSでは、「チャドウィック・ボーズマンは、オスカーに値しています。もう2度と作品を撮ることはできないので、本当に残念」「アカデミーは懲りずに年老いた白人俳優に再びオスカーを与えた」などボーズマンさんが受賞を逃したことへの批判だけでなく、「ボーズマンさんの受賞を利用しようとした」と授賞式の在り方への批判もあり、大逆転の末の受賞者欠席は波紋を広げています。

もっとも、83歳のホプキンスにとっては、コロナ禍に自宅のあるウェールズからLAまで渡航することは無理があり、また授賞式が始まるのも英国時間の深夜1時であることからリモートの中継地となるロンドンまで出向くのも億劫だと考えたとしても不思議はなく、早々に授賞式を欠席することを表明していました。ホプキンスは受賞から数時間後に、「この年で、受賞できるとは本当に思ってもいなかった」とメッセージを発表し、この結果はあくまで想定外だったことを明かしています。

もちろん、過去にも授賞式を欠席した受賞者はいましたし、最後の最後まで誰がオスカーを手にするのかわからないのがアカデミー賞であり、ホプキンスの演技も受賞に値する素晴らしいものだったことも間違いありません。ただ、今年に限ってはコロナ禍という異例の授賞式となった中、史上初めて賞の発表順番を変えたがために起きてしまった、歴史に残るハプニングだったことだけは間違いないでしょう。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)