演歌・歌謡曲の世界で「第7世代」と呼ばれる歌手が活躍しています。ニッカンスポーツ・コムでは「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー~」と題し、音楽担当・笹森文彦記者が、そうした歌手たちを紹介しています。今回から登場するのは、女性シンガー・ソングライター蘭華(らんか)。愛、命、人生などをテーマに、透明感ある歌声で聴かせます。中国にルーツを持ち、民族楽器などを取り入れた曲調も魅力です。

満開の桜を背に笑顔を見せる蘭華(撮影・河野匠)
満開の桜を背に笑顔を見せる蘭華(撮影・河野匠)

蘭華は15年にメジャーデビューし、16年の日本レコード大賞で注目された。西野カナが「あなたの好きなところ」で大賞を受賞した年だった。同年発売の初アルバム「東京恋文」で企画賞を受賞した。山崎育三郎、JUJU、永井龍雲、中村美律子らの作品と並んでの栄誉だった。和テイストの歌詞、和楽器や民族楽器を取り入れたオリエンタルな曲調など、斬新さが評価された。

アルバムタイトルにもなっているリード曲「東京恋文」は初夜をイメージ。インカ帝国が起源といわれるサンポーニャ(別称シーク)という管楽器を使っている。

「美しき人生」という作品では、「思い出を 辿(たど)りつつ踏む 落ち葉道」「父老いて 屈(かが)む背中に 細雪」など、歌詞に俳句をしのばせた。

人生ははかないものだから、後悔のないように大切な人と向き合ってほしいと歌う。

「揺れる月」では、紫式部の「源氏物語」に登場する光源氏を愛した女性たちや、近松門左衛門の代表作「曽根崎心中」に出てくる遊女の心情に思いをはせて歌にした。竹笛や雅楽に使われる笙(しょう)と呼ばれる管楽器が効果的に使われている。

他にも、中国の二胡(にこ)や沖縄の三線(さんしん)南米のチャランゴという弦楽器も使用している。ジャケット写真は、自らの発案で大正ロマンをイメージした着物姿にするなどして、アルバムの世界観をより印象的にしている。

蘭華 1人の少女が、喜怒哀楽、出会いと別れ、さまざまな経験をして大人の女性へと成長してゆくその過程を、恋愛、人生、命、望郷といったテーマに織り込んでみました。少女と大人の女性のように、かわいらしさと妖艶さの二面性をアルバムの中で表現できたらと思って作りました。

中国にルーツを持つ華僑3世として、大分県中津市で生まれた。高校卒業後、北京にある北京語言大学に留学した。その経験がアーティストとしての土台になったという。

蘭華 中国留学が転機だったと思います。学校が終わると、京劇を見に行ったり、民族音楽を聴きに行ったりしました。ルームメートはフランス、イタリアなどほとんどが外国人で、世界中から来ている友達と触れ合い、いろんなCDを聴かせてもらったりしました。そこが自分の音楽の原点で、自分が作り出す音楽にいろんな世界の楽器を取り入れたい、ミックスしたいという曲作りになっているんだと思います。19、20歳の時にそれが吸収されたのかなと思います。

18年に発表したセカンドアルバム「悲しみにつかれたら」にも、その経験が生かされた。テーマの根底に「愛」があるのは変わらないが、前作「東京恋文」とは一変した。ジャズやブルース、シャンソンなど洋楽のエッセンスをふんだんに取り入れ、大人のポップスアルバムに仕上がっている。

日本レコード大賞の企画賞を受賞した「東京恋文」のジャケット
日本レコード大賞の企画賞を受賞した「東京恋文」のジャケット

蘭華 「東京恋文」で和とオリエンタルを融合させた作品をつくれました。その世界観を踏襲して2作目を作るアイデアもあったのですが、私はシャンソンもブルースも好き。歌手修行中はR&Bやヒップホップも歌っていました。和とオリエンタルの世界観だけでなく、そこに自分の好きな別の世界観を交えることはできないかと思って制作しました。

オリエンタルな世界や、和洋融合の世界を、透明感あふれるハイトーンで歌い上げるのも、蘭華の大きな魅力である。シンガー・ソングライターのもう1つ「歌詞」に関しては、「曲調」と比べると、極めて和テイストである。前述したように、作品によっては俳句や和歌、古典文学に影響されている。

蘭華 実は以前、私が書く詞が純粋というか、ストレート過ぎると指摘され、比喩表現を学びなさいと言われたことがありました。私は日本生まれですが、ルーツは中国で「和」について考えていくうちに、和にひかれていく自分がいました。座禅、写経、神社仏閣巡り…。それで人の心の機微や四季の移ろいを感じさせる表現ができるのは、俳句かなと思って、浅草の句会に通ったんです。

最初は作詞の勉強のために、広告宣伝を仕事にするコピーライターを養成する講座に行こうか思ったが、句会で7年学んだ。成果は作品に如実に表れている。 

蘭華 当時、20代だったのですが、周りは70代、80代の方ばかり。句会の会場が呉服屋さんの一室で、お着物で来られる方が多かった。本当に、和、日本というのを感じられましたね。句会後に浅草でおいしい物を食べるのも楽しみでした(笑い)。

蘭華の作品のテーマは、男女だけでなく親子、家族、友人、恩師への愛や命、人生などが多い。悲恋や死別もあるが、それを乗り越えて再生しようとする強さが込められている。それは同時に、歌手デビューを目指した蘭華の、生きざまでもあった。(つづく)

◆蘭華(らんか) 大分県生まれ。高校3年生の時に地元のカラオケ大会に入賞し歌手を目指す。卒業後、都内の中国語専門学校に進学。自主制作曲がテレビ東京系「釣りロマンを求めて」やテレビ朝日系「朝だ!生です 旅サラダ」のテーマソングに。14年に初シングル「花時」発表。カップリング曲「三日月の影」はNHK・BSドラマ「ダンナ様はFBI」主題歌。15年に両A面シングル「ねがいうた/はじまり色」でメジャーデビュー。20年に両A面シングル「ねがいうた/愛を耕す人」発表。21年に新曲「愛しい涙」配信リリース。出雲観光大使。特技は温泉ソムリエ、書道七段。

◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ) 北海道・札幌市生まれ。早大第1文学部心理学科卒。83年入社。文化社会部で音楽担当記者。初代ジャニーズ事務所担当。演歌・歌謡曲やアイドルだけでなく、井上陽水、矢沢永吉、松山千春、長渕剛、アリス、中島みゆきら数多くのミュージシャンをインタビュー。93年から日本レコード大賞審査員、16年は審査委員長。座右の銘は「鶏口牛後」。血液型A。