亡くなった朝丘雪路さん、西城秀樹さんは舞台でも活躍していた。

 西城さんと舞台と言うと、歌の世界での華やかなキャリアゆえになじみ薄そうに思われるかもしれないが、実は22歳の時に劇団四季のミュージカルに主演している。77年7月に東京・日生劇場で上演された「わが青春の北壁」で、ミュージカル初挑戦だった。西城さんの代表曲の1つ「君よ抱かれて熱くなれ」の作詞家阿久悠さん、作曲家三木たかしさんのコンビが関わった舞台で、阿久さんが脚本・作詞、三木さんが作曲を担当し、演出は浅利慶太さんだった。

西城秀樹さん(2017年8月20日撮影)
西城秀樹さん(2017年8月20日撮影)

 北アルプスの北壁登山を舞台に、兄の妻にあこがれを抱く青年の姿を描いた。西城さんは青年を演じ、兄に滝田栄さん、その妻に久野綾希子さん、そして三田和代さんも出演した。当時、アイドル歌手として人気絶頂の西城さんだが、四季の稽古場に1カ月、休むことなく通い、四季独特の発声法を学んで、舞台に臨んだ。多忙なアイドルともなると、稽古日程がしっかり取れないケースもよく見られるが、西城さんは稽古場での生活を楽しんだ。その後も鳳蘭さんと共演した「デュエット」「ラヴ」などニール・サイモン作品のミュージカルに主演し、最初の脳梗塞から復帰して活動中だった11年にはミュージカル「マルグリット」で若い2人の恋を引き裂く、初の悪役にも挑んだ。

 朝丘さんは宝塚歌劇出身だが、実は宝塚入りの前に初舞台を踏んでいる。父の日本画家伊東深水さんと交流のあった新派の公演に12歳で出ていたのだ。宝塚退団後に女優として活動する中、朝丘さんは舞台に熱心に取り組んだ。「雪路まつり」と題して、「滝の白糸」「明治一代女」「風流深川唄」など新派の名作に意欲的に挑んだ。

朝丘雪路さん(2011年11月10日撮影)
朝丘雪路さん(2011年11月10日撮影)

 最後の舞台は認知症の診断を受けた直後の14年で、娘の真由子さんが脚本・演出、振付を担当した時代劇ミュージカル「花や…蝶…」。月刊誌「文芸春秋」最新号に真由子さんが寄せた告白によると、芝居の冒頭のおいらん道中の場面があり、当時78歳の朝丘さんが高下駄を履くと、転ぶ恐れがあるため、厚めの草履に変更しようとしたところ、朝丘さんは「私は女優です。草履ではなく、高下駄でお願いします」と言い、凜(りん)とした姿でおいらん道中を見事にこなした。女優としてのプライドを持ち続けた。【林尚之】