大竹しのぶ(64)が、故杉村春子さんの代表作「女の一生」(11月2~26日、東京・新橋演舞場)に初めて挑む。明治、大正、昭和の戦中を生き抜いた布引けいを主人公にした名作舞台。終戦前の1945年(昭20)4月に初演され、以降、杉村さんは90年まで計947回も演じた当たり役だった。

大竹は、杉村さんが97年に91歳で亡くなる前にドラマで共演しているが、杉村さんは1回目の収録で体調不良となり、途中降板してしまった。大竹は「何日間か一緒になりました。戦時中は、芝居中に空襲警報が鳴るとか、不当なセリフがないかを検閲するため、後ろにおまわりさんが立っている中、お芝居をやられていたそうで、『あなたはいいわね、自由な時代に生まれて。自由に芝居ができるんですもの。頑張りなさいね』とおっしゃってくださったことを思い出します」と振り返る。さらに「できるだけの条件の中で、布引けいが、生き生きと生きられるような芝居を作っていきたい。ひと言、ひと言のせりふに文学を、歴史を、人間を感じます。ここで私たちがいいものを作って50年後、100年後の未来に、布引けいが、こうやって生きてきたと伝えられるいい芝居を作りたい」と続けた。

杉村さんが主演した井上ひさし作「日の浦姫物語」の日の浦姫、テネシー・ウィリアムズ作「欲望という名の電車」のブランチを、大竹は演じている。「あまり意識しないで、私なりのけいを演じなくてはいけないなと思っています。『あの杉村春子がやった布引けい』って言われるのは分かっているので、多少のプレッシャーはありますが、大丈夫! 頑張ります」。

今年4月に主演予定だった舞台「桜の園」が中止になり、今回が久しぶりの舞台となる。「ゲネプロの直前まで行ったけど、そこで中止になって、あの時の喪失感や、こんなに面白い芝居を見てもらえることもなく、セットもすべてが散っていくという悲しみは、一生忘れられないものでした。そこからは、自粛期間に入って、でも、いつかまたと思って生きていました」と自粛中の思いを吐露した。

「女の一生」もコロナ禍のため10月の京都・南座公演が中止となり、新橋演舞場公演も1400の客席を半減して上演する。「舞台に立つことや、客席がお客さんでいっぱいになることは、当たり前のことでしたが、(戦時中の)過去のことや、コロナ禍の現状を考えた時、決して当たり前ではなかったことに気が付きました。この舞台では、命がけで挑みたいです」と言葉に力を込めた。並々ならぬ思いで「女の一生」、布引けいに挑む大竹の舞台が、待ち遠しい。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)