東京・歌舞伎座で「13代目市川團十郎白猿」襲名披露興行を見てきました。

雑誌やネットではチケットが売れ残っているなどと騒がれていましたが、初日から2日後の9日に観劇した時は昼の部、夜の部ともに満席でした。歌舞伎座でこれだけ満員の状態を見るのは久しぶりでした。コロナ禍の中、20年8月に公演を再開して以来、人数制限が続きました。今年8月から全座席が売り出されたものの、空席が目立つ公演も多かったのですが、さすがに「團十郎」襲名興行は別格でした。

新團十郎は夜の部の「助六由縁江戸桜」の助六が良かった。花道から登場した時の姿、所作に色気があり、まさに江戸一番の色男ぶりでした。初舞台の8代目新之助は「外郎売」の早口言葉を完璧に演じました。工藤祐経は尾上菊五郎でしたが、新之助の演じる姿を見つめるまなざしは「おじいちゃん」のような優しさに満ちていました。一部に「口上」出演を渋っていたなどと書かれた菊五郎ですが、その「口上」では團十郎について「一時は暴れん坊将軍と呼ばれたこともあったようですが」と客席の笑いを誘っていました。

幸先のいいスタートを切った襲名興行ですが、過去の大名跡の襲名興行と比べると、何かが欠けていると感じました。客席を見ても着飾っている女性の姿が少なかったこともあるけれど、何よりも歌舞伎の重要な演出の1つである「掛け声」が原因のように思いました。コロナ禍の中、「掛け声」は公演再開後も封印されていました。今回は一般の観客の掛け声は厳禁ですが、大向こうの掛け声が復活しました。ただ。大向こうの人数は毎回2人だけに限定された上、4階席の一部にアクリル板に仕切られたスペースからマスク着用で放たれる「掛け声」は通りが悪く、迫力不足は否めませんでした。「成田屋!」「13代目!」などと掛け声が飛び交う日が早く戻ってきてほしいものです。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)