吉永小百合120本目の出演作。終戦間近の樺太と戦後の網走、高度経済成長期の札幌を舞台に、戦争と貧困、時代の波にのまれながらも、懸命に生きるてつ(吉永)と家族の物語。

 劇中劇を軸にストーリーは展開する。ソ連軍の樺太侵攻、夫の出兵、本土への疎開。ポツダム宣言受諾後も戦争が続いた「樺太の悲劇」をきっちり押さえながら、劇中劇で説明や本筋から外れるシーンを補完し、厳しい北の冬景色をバックにテンポよく物語は進む。

 時代は変わり70年代、息子修二郎(堺雅人)は所帯を持つが、母との縁は切れない。認知症を患う母、アメリカから連れ帰った嫁、軌道に乗り始めた仕事。何を優先すべきか、現代を生きる誰もが直面するであろう普遍的なテーマも、随所にちりばめられている。母子は記憶を取り戻す旅に出るのだが、それは同時につらい記憶をたどることでもある。桜がつなぐ家族の絆と悲しい事実が、対照的に画面を彩る。

 死と隣り合わせの日々の中、誰もが十字架を背負って生きていたあの時代。終戦を迎え医療が進歩し、人の死が身近でなくなった現代人にも、力強く生きる親子の姿は響くはずだ。【杉山理紗】

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