テーマはたくさんある。仕事から離れた時に自分に残るもの、長年連れ添った夫婦、中高年の恋、Uターン…。ホラー作品で知られる中田秀夫監督、もともとロマンチックコメディーが好きだったというだけあって、どのテーマも、どの登場人物も温かいまなざしで描いている。

 舘が演じるのは、定年後に人生を模索する壮介。黒木は美容師の仕事を持って生き生き働く妻千草を演じた。

 壮介のどこか抜けてて憎めない感じ、千草の迷いながらも前向きなところに親近感が湧く。この2人が夫婦なんて、かっこ良すぎると思いきや、舘はいい具合にくたびれて見せているし、黒木の輝きぶりもパーフェクトじゃないところがいい。

 前半は定年直後の壮介のさえなさに笑い、後半は生き方を模索する姿にハラハラし、エールを送った。定年はまだまだという人、定年に関係ない仕事をしている人でも、生活から仕事を切り離した時、何が残るかと考えると、主人公の焦りやあがきに共感できる。

 笹野高史演じる壮介の同級生が、文字通り、偽りの自分を脱ぎ捨てる場面(!)も見ものです。【小林千穂】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)