08年に起きたインドの「ムンバイ同時多発テロ」では170人以上が死亡した。が、襲撃目標の1つタージマハル・ホテルでは500人以上の人質のほとんどが生還を果たしている。

大惨事の中で5つ星ホテルの従業員たちはいかにして宿泊客を守ったのか。奇跡のような実話を入念な取材をもとに描いた作品だ。

主演はデヴ・パテル。彼を世界レベルに押し上げたのは18歳で出演した「スラムドッグ$ミリオネア」だが、そのラストシーンに登場したムンバイの駅は撮影数カ月後にこのテロの標的となった。因縁があるからだろうか。血走った目には悲壮感が漂う。武器を持たずにイスラム武装勢力に立ち向かう不器用で誠実なホテルマンに説得力がある。

これが長編デビュー作のアンソニー・マラス監督は1年がかりで生存者や関係者の取材を重ねたそうで、非常事態にむき出しになる宿泊客たちの本音や行動が生々しい。極限の人間ドラマに見応えがある。

残虐な行動の裏にある武装勢力側の悲哀もきっちりと盛り込まれている。一方的な断罪にとどまらず、「テロの悲劇」を俯瞰(ふかん)する視点がこの作品の深みになっている。

【相原斎】 (このコラムの更新は毎週日曜日です)