福島第1原発事故から9年になる。原子炉建屋の爆発、陣頭指揮を執る吉田昌郎所長、突然現地を訪れた、時の総理大臣…ニュース映像の断片は今でも鮮明に覚えている。映画は「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(門田隆将著)を原作に、当時の報道ではうかがい知れなかった原発所内の人たちの闘いにスポットを当てている。

いきなりの大津波、時間を置かずに電源喪失-冒頭から天災の容赦なさを印象付ける。原発1、2号機の当直長は現場に踏みとどまり、所長との信頼関係で、最悪の事態を回避するために動揺する所員たちを支える。当直長を佐藤浩市、所長に渡辺謙。文字通り他に代えられない2人がいつにもまして熱を込める。

自己犠牲、怒り、もろさ、そして入社同期の微妙な関係…ぎりぎりの心理状態はさもありなんと伝わってくる。2人の覚悟が本社や政府の足元の危うさを照らし出す。上映時間の関係で人物描写が一面的になった感もあるが、総理役の佐野史郎もイラッとはまる。

最後の手段は建屋奥に所員が入り込む手作業しかない。薄暗く、じめっと息苦しい。忘れてはいけない恐怖が改めて胸に刻まれた。【相原斎】

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