「どくいり きけん たべたら 死ぬで」。1984年から85年にかけ、日本中を震撼(しんかん)させた昭和の未解決事件。「かい人21面相」を名乗る犯人グループは、複数の食品会社を脅し、不特定多数の市民を「人質」に取る形で大金を奪おうとした。「キツネ目の男」の似顔絵は、いまも多くの人の記憶に強烈に残っている。

脅迫に使われたのは3人の子どもの声だったとされる。「テープの子どもたちはどんな人生を歩んだのか」。事件をモチーフにした新聞記者出身の塩田武士氏のベストセラー小説が原作。平成の終わり、京都でテーラーを営む星野源が演じる曽根俊也は、父の遺品からカセットテープを発見する。聞こえてきたのは、幼いころの自分の声…。35年前、事件に使われた音声と同じものだった。

小栗旬が演じる新聞記者の阿久津英士は事件を追う特別企画班に選ばれ、取材を重ねるうちに曽根と出会う。映画初共演の2人の熱演が胸を打つ。登場人物も多く、事件も複雑だが、真実に近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなった。どこまでがフィクションなのか…。綿密な取材に基づいたリアリティーに圧倒された。【松浦隆司】

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