コロナ対策で先手を打ち、ニュージーランドの女性首相が株を上げたが、この映画では「日本初、そして理想の女性総理」を中谷美紀が鮮やかに演じている。弁舌鋭く民意を捉え、老獪(ろうかい)な大物政治家の真意も見抜く。組閣時の大胆に背中の割れた黒いドレス姿にはほれぼれする。この人の「インド旅行記」を読めば分かるのだが、見かけによらずものに動じない。その持ち味がにじんでいる。

対して、田中圭演じる夫は資産家の御曹司にして鳥類研究にしか関心のないオタク気質。ワキが甘いから政敵の付け入るスキになる半面、欲がなく理想の政治にまい進する妻の本質的な邪魔にはならない。好感度俳優田中のはまり役。ある意味理想のファーストハズバンドだ。

国会答弁や組閣シーンのリアルなセットとは対照的に、野鳥が飛来する大邸宅など、夫にまつわる部分はファンタジックに描かれ、そのギャップで「総理の夫」の悪戦苦闘が漫画的に強調される。そして、リアルとファンタジーが交わる最終盤はドラマチックだ。政治家然となりきった岸部一徳と嶋田久作が一拍置くトボケた味で笑わせる。【相原斎】

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