推理作家アガサ・クリスティの名探偵ポアロものを映画化しようとした時点で、チャレンジだ。これまで“名優が演じた名作”がずらりと並んでいるのだから、前作「オリエント急行殺人事件」に続いて監督と主演を務めるケネス・ブラナーはどれほどプレッシャーを感じたことかと思う。

ブラナーのエルキュール・ポアロは、若くエネルギッシュだ。そこが魅力でもあるが、前作では危うくもあると感じていた。上品さと変わり者が紙一重というキャラクターにしては、若々しすぎた。

2作目の当作でやや落ち着き、変わり者としてのいい味を出している。殺人事件とともに愛が大きなテーマになっている作品。若いころに経験した愛のエピソードが冒頭にあるため、ポアロの言葉や決断に説得力が出ている。なぜあんなに大きなひげを生やしているのかという理由も描かれており、新しいポアロを見ることができる。

ちなみに記者は、デビッド・スーシェが演じた英国ドラマ「名探偵ポワロ」シリーズの大ファン。繰り返して見るたび、新しい発見がある。ドラマ版の「ナイル-」も好きな作品だ。作品の力は大きい。【小林千穂】

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