1952年(昭27)の黒澤明監督の映画「生きる」を原作に、17年にノーベル文学賞を受賞した長崎市生まれの日系英国人カズオ・イシグロ氏(68)が脚本を手がけた。近年、日本では同監督没後20年の18年にミュージカル化され、20年に再演されたが、原作公開から70年後、同じ映画の土俵で、舞台を英国に置き換えリメークした。そんなチャレンジングな作品が、米アカデミー賞で英俳優ビル・ナイの主演男優賞と脚色賞、英国アカデミー賞で作品賞、主演俳優賞、脚色賞、新人賞にノミネートされた。

主人公が役所の市民課長で、胃がんで余命いくばくもない中、人生を顧みて仕事への意欲を取り戻し、小さな公園の整備に人生をささげるなど、重要な部分は踏襲している。一方で、市民課の新人の目線から見詰めた主人公を描くシーンが、冒頭から展開されるなど、原作にはない視点、目線も提示している。

それにしても「-LIVING」の試写を見た後に「生きる」を見直して、作品の持つ力を改めて痛感した。命の期限を突きつけられた中、人としての生きがいは何なのかを考え、人生に向き合う主人公を演じた、志村喬さんの鬼気迫る芝居が脳裏から離れない。「-LIVING」によって、見たことがない人に「生きる」への扉が開く…。それが両方の作品にとって最大の幸福ではないだろうか。【村上幸将】

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