平仮名7文字の題名を見て、何を想像するだろうか? おきくとは黒木華演じる主人公の名前…では、せかいとは? ヒントは佐藤浩市演じる、おきくの父源兵衛が「なぁ、“せかい”ってことば、知ってるか」と寛一郎演じる中次に語りかけた、せりふにある。中次と池松壮亮演じる矢亮、そしておきくが、厳しい現実の中でも心を通わせ、生きていく日々が胸を打つ。

21年度末で下水道普及率が80・6%に及ぶ日本でも、かつては多くの地域で日常的に行われていた、くみ取りが1つのテーマだ。舞台の江戸末期は大雨が降れば、かわや(トイレ)からふん尿があふれ出す。ふん尿をくみ取り、肥料として売って生計を立てる下肥買いの矢亮と中次は、循環型社会を支える存在ながら臭い、汚いとさげすまれる。

最下層で生きる中でも読み書きを覚え、世の中を変えたいと本気で思っている中次を、寺子屋で読み書きを教える、おきくは見詰め続ける。臭かろうと、武家育ちの自分と身分に差があろうと関係ない。中次も思いを寄せ始めたが、おきくは、のどを切られ声を失ってしまう。コミュニケーションすらままならなくなるが、それでも全身で思いをぶつけ、受け止め合う2人のなんと美しいことか。年齢とか立場とか関係なしに、あらゆる人にその美しさを味わって欲しい。心の底からお勧めしたい1本だ。【村上幸将】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)