映画「かもめ食堂」「川っぺりムコリッタ」などを手がけた荻上直子監督の最新作にして最高傑作。プレミア上映会で荻上監督は「自分の中での邪悪なところを全部詰めました。一番面白く出来たと思っています。出演者のおかげで」と感謝し、自信をのぞかせた。

次々と降りかかる苦難に感情を抑える、筒井真理子演じる主人公・須藤依子が新興宗教をよりどころに、絶望のなかで募った感情を爆発させる姿を描いた。須藤家を通して、放射能、介護、障がい者差別など現代社会の闇や不安、女性の苦悩に焦点を当てている。序盤は宗教に陶酔する依子を客観視して笑えるが、次第に依子の気持ちを理解してしまうことに驚いた。

依子には現代の日本女性の生きづらさが投影されている。同作で起こることは特別なことではなく、日常的な異常なこと。家事や育児に介護まで、不満を抱えながら無償労働する。たまった不満やわずかな言葉が重なり波紋となれば、元に戻ることは難しい。人間誰しも二面性があり、夫婦も他人、子どもや親も価値観が全く同じことはないというメッセージが心に響く。

一見シリアスな雰囲気だが、笑えるコメディー要素も満載。絶望から解放されるラストは必見だ。【加藤理沙】

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