91歳の山田洋次監督にとって1961年(昭36)の監督デビュー作「二階の他人」から数えて90作目の監督作となった。20年に100周年を迎えた松竹映画は、一貫して家族と人情を描いてきた。同社に54年に助監督で入社し、来年で70年になる同監督が、現代を舞台に松竹映画の神髄である家族の映画を作り上げた。

吉永小百合演じる主人公は、74歳ながら寺尾聰演じる牧師に恋心を抱くなど生き生きと生きる。一方、大泉洋演じる47歳の息子は、会社では人事部長として神経をすり減らし、家でも妻との離婚問題と永野芽郁演じる娘との関係に頭を悩ませる上、恋する母の姿に困惑する。一方で、母と娘は、互いの生き方に理解し合う…そこに現代的な家族の在り方が描かれている。

山田監督は、1日に都内で行われた初日舞台あいさつの最後に「映画を見るのが難しくなってきた。カードでチケットを買わないといけないし僕は苦手。年配の人が戸惑って、切符を買えない妙な事態になっている。僕は時々、怒りすら覚える」と苦言を呈した。

その上で「実はそういう人たちの方が映画を分かっている、僕たちにとって上質なお客さん」と声を大にした。近年、日本映画の伝統を守るような作品より、分かりやすく派手なエンターテインメント作品の方が、興行的に結果を出す傾向が高まっている。興行システムと観客に支持される作品の移り変わり…そこに「こんにちは、母さん」は、どう挑んでいくのか。山田監督の言葉が胸に刺さった。【村上幸将】

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