名曲やヒット曲の秘話を紹介する連載「歌っていいな」の第23回は、安室奈美恵さんの大ヒット曲「CAN YOU CELEBRATE?」です。97年のNHK紅白歌合戦で同曲を歌って歌手活動を1年間休業後、98年の紅白で再び同曲を歌って復帰を果たしました。曲の制作を依頼された際の口説き文句を意気に感じた小室哲哉さんが、プロ魂をいかんなく発揮した結果、後世に残る名曲が誕生しました。

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96年秋、安室奈美恵さんの「CAN YOU CELEBRATE?」のオーケストラ(演奏部分)が完成したニューヨークのレコーディングスタジオで、プロデューサーの小室哲哉さんは、意外な言葉を耳にした。「すばらしいですけど、少し変えたほうがいいと思います」。声の主はフジテレビのドラマ「バージンロード」の主題歌として、同曲の制作を依頼した栗原美和子プロデューサーだった。栗原さんは中盤の「永遠ていう言葉なんて知らなかったよね」のフレーズは冒頭がいい、と主張した。

スタッフは青ざめた。音楽については素人とも言える栗原さんから、小室さんが「やり直し」を告げられたのだ。ピアノの前に座った小室さんが、栗原さんを呼び寄せた。スタジオの空気がピーンと張り詰めた。しかし小室さんは怒るどころか柔和な笑みを浮かべ、「そうしたら、こうなりますよ」と説明しながら演奏を始めた。しばらくして、レコーディングが再開された。栗原案が採用された。

97年1月にスタートしたドラマ「バージンロード」は、結婚をテーマに、親子愛、不倫、純愛が入り乱れるドラマだった。小室さんはその前年夏、栗原さんから主題歌の依頼を受けた。口説き文句は「今世紀最後で、最大のウエディングソングを作ってほしい」だった。小室さんは「注文は他にありませんか? 全部任されるより、希望をどんどん言ってもらったほうがやりやすいんです」と問いかけた。そこで栗原さんは「ハッピーなシーンでも、切なく泣けるシーンでもかけられる曲にしてください」と注文した。

「今世紀最後で最大」の言葉に、小室さんは心動かされた。わずか2週間でデモテープを仕上げた。「中途半端な音では、この曲の良さは理解できない」と、デモテープとしては異例のフルオーケストラで演奏部分を録音した。ドラマのスタッフは、ただただ驚くだけだった。

栗原さんは「小室さんがすごいのは、自分のやりたいことを前面に出すのではなく、期待されているものを表現した上に、それ以上の何かを提供できる。ビジネスも完璧にできるアーティストなんです」と話す。つまりレコーディングで「やり直し」を求めたのも、小室さんの信条に寄り添った行動だった。

栗原さんの願い通り、その後「CAN YOU CELEBRATE?」は、日本中の結婚披露宴で歌われた。安室さんも「ずっと歌われてほしい」と言う。小室さんも栗原さんも、そんな安室さんがこの曲を発表した年の10月に電撃結婚をするとは思ってもいなかった。安室さんは同曲を歌う時の心境について「結婚してからですか? それは気持ちの入れ方が変わりましたよ。どう変わったかは秘密ですけど」と笑っている。【特別取材班】

※この記事は97年12月8日付の日刊スポーツに掲載されたものです。一部、加筆修正しました。連載「歌っていいな」は毎週日曜日に配信しています。

98年12月31日、第49回NHK紅白歌合戦で号泣する安室奈美恵
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