漫才日本一決定戦「M-1グランプリ」が今年も始まった。昨年王者のミルクボーイ内海崇(34)と駒場孝(34)は、昨夏のエントリー時からこの1年を振り返った。2人を取り巻く環境は大きく変わったが、周囲への感謝の思いは何ら変わらない。漫才のネタに登場する「オカン」について熱く語り、母へも感謝のメッセージを送った。

★4本全力でいく!

昨年のM-1エントリー時、内海は中華料理店の出前で働き、駒場も朝は冷凍おせちを運び、昼はジムでアルバイトをしていた。

駒場 「1回戦いつにする?」「バイトがない日にしよう」とか。去年の夏なんか、めちゃくちゃバイトしてました。

2人は昨年8月7日に1回戦に出場し、M-1をスタートさせた。

内海 4本いるんです。全部ネタを変えようと思ったら。ネタを変えることと、1回戦から全力でいくって決めてました。

1回戦「のぼり棒」2回戦「デカビタ」3回戦「コーンフレーク」準々決勝「モナカ」準決勝「コーンフレーク」のネタを披露した。

内海 最大目標は準決勝やったんですよ。

駒場 準決勝に行ったら敗者復活戦にも残れて、当日までM-1があるって状態じゃないですか。そこを超えてるか超えてないかで全然違う。

目標だった準決勝も通過し、初出場した決勝のファーストステージ。「コーンフレーク」ネタを披露してM-1史上最高の681点をたたき出した。ファイナルステージでは審査員7人中6人の票を得て15代王者に輝く。優勝後、それまでの生活が一変した。

内海 全部変わったんじゃないですか。

駒場 バイトも辞めました。出会う人も変わった。

環境の変化に驚きつつも、家族のありがたみを改めて実感した1年だった。

内海 親孝行が初めてできた。ずっと応援してもらってたんで。浜村淳さんのラジオに出させてもらったんですけど、それをめっちゃ喜んでた。ずっと浜村淳さんのラジオをオカンとオトンが聞いてた。

駒場 (TBS系トーク番組の)「A-Studio」で、僕らの知らんところでいろいろ調査してくれて。僕のオカンとオトンとZoomで(笑福亭)鶴瓶師匠がしゃべってた。その前は電話で木梨(憲武)さんと話をしたらしくて「普通に生きてたらしゃべれる人じゃないので、ありがとう」って。

★今年は4万もらう

2人の漫才には「オカンが●●の名前を忘れたらしくて」「オカンが言うには」と、母が登場する。それまではボケの駒場や妹、オトンが出てくることがあったが「オカン」で統一。そんな2人のオカンとは-。

駒場 僕は転勤の家族。大阪で生まれて沖縄に住んで、横浜に住んで、また大阪で。家族(実家)は横浜なんですけど。オカンはどこ行っても「大阪のおばちゃん」みたいな感じ。沖縄でも急に行って、友達も全然いないじゃないですか。なのに友達をいっぱい作ってたこ焼きパーティー(を)したり。横浜に行っても「大阪のおばちゃん」を貫いて。頑張って仲良くなってっていうのをやってたんで、たくましいと思いますね。

内海 優しいけど、学校を休むのだけはめっちゃ怒ってた。風邪ひいても休ませてくれなかった。今思えばいいことか分からんけど。でも世話焼きというか、クリスマスは近所の子どもにもお菓子を配ってた。人に何かあげるのが好きみたいな。だから僕にもめっちゃくれました。スーパーファミコンのカセットは100本持ってました。

オカンと自分が似ていると感じる部分は、内海は「何も気にせんとこかな。ちょっとは気にしますけど、最終的には何も気にしない、マイペースなとこですかね」。駒場は「まじめさはありますね」と答えた。母の教えは、2人の仕事の姿勢にも影響を与えている。

駒場 オカンのだるそうな姿を見たことない。それは僕も今、できてるんかなって思う。仕事するにしても、だるいことがあっても表に出さないというか、自分がしんどいのを出す必要もないじゃないですか。オカンは多分、しんどかった日もあると思うけど、疲れてるとか寝込んでるのはあんまり見たことがない。それは勝手に(自然と)勉強してたかもしれない。

「心配はかけんとこうと思います。何か悪いことをしたら、オカンも離れてしまう」と母への思いを語る内海。真剣に語りつつも芸人らしく「オカンはギャンブル好きなんで、金遣いの思い切りは似てしまいました」と笑わせ、昨年のM-1予選中、オカンから賞金をもらっていたことも明かした。

内海 1回戦受かったら1万もらってました。2回戦受かったら2万。3回戦3万。「今年は4万もらうぞ」って気持ちでやらせてもらいました(笑い)。

★長生きしてほしい

駒場は18年に、内海は今年6月に結婚。駒場の東京での仕事が長いときは、妻も大阪から東京に。日中は駒場の横浜の実家に行き、夜にホテルに戻る。駒場の母は「結婚してくれてありがとう」と妻に感謝しているという。

母の前で妻が酔っぱらう姿を見せることも。駒場は「お互い心は許してると思います。ありがたい」。内海も「仲いいですよ。一緒にパチンコに行ったことがあります」と語る。そんな妻とオカンの共通点は、駒場は「まじめさが似てます。奥さんも男前で、昔やんちゃしてましたけど、家がまじめなんですよ。お互いの家が似てる」。内海は「似てる気はします。雰囲気も似てるし」と言う。

新型コロナウイルスの影響で、多くのイベントが中止に追い込まれているが、2人は多忙だ。内海は「リモート漫才とか、身に染みるような貴重な体験をさせてもらいました」。駒場も「ありがたいと思います」と感謝を口にした。M-1王者となっても、コロナ禍でも周囲への感謝の気持ちを忘れずに、仕事に打ち込んでいく。オカンにも感謝のメッセージを送った。

内海 いつもありがとうございます。僕、けっこうお金をいっぱい借りたりしてたんで。返していってるんですけど…。やっと親孝行ができるようになったんで長生きしてもらいたい。

駒場 ネタでもずっと「オカン、オカン」って言ってる。これからも言わせてもらうことになると思うんで、これからもいろんなことを忘れてほしいですね。漫才の「オカンが●●の名前を忘れたらしくて」って、オカンが忘れてるからできる。

内海 100歳くらいになってたらおもろいな。「どうなってんねん」じゃなくて「そらそうか」って。

駒場 いつまでも元気で、いろんなこと忘れてほしいですね。【星名希実】

○…ミルクボーイが優勝した昨年の大会DVD「M-1グランプリ2019~史上最高681点の衝撃~」が発売中だ。決勝の模様、舞台裏に密着した「アナザーストーリー」に未公開映像も加えて再編集。「ミルクボーイ撮り下ろし企画」や敗者復活戦も収められている。2枚組。

◆ミルクボーイ

内海崇(うつみ・たかし=1985年12月9日、兵庫県生まれ)駒場孝(こまば・たかし=86年2月5日、大阪府生まれ)が、大阪芸大の落語研究会で知り合い、07年7月に結成。吉本興業の地域活性化プロジェクト「住みます芸人」の大阪市天王寺区を担当。内海の趣味はけん玉、早食い。駒場の趣味はボディービル。

◆「M-1グランプリ2020」

1日に東京で開幕。現在、1回戦を無観客で開催中。新型コロナウイルス対策で、今年は3回戦はなし。予選は1、2回戦の次は準々決勝、準決勝、そして12月に敗者復活戦と決勝の流れ。

(2020年8月23日本紙掲載)

「Mー1グランプリ2019~史上最高681点の衝撃~」のDVDを披露するミルクボーイの駒場孝(左)と内海崇(撮影・前岡正明)
「Mー1グランプリ2019~史上最高681点の衝撃~」のDVDを披露するミルクボーイの駒場孝(左)と内海崇(撮影・前岡正明)