モデル、タレント、MCに、今度は女優業も加わった。佐藤栞里(31)。誰からも愛され、周囲を笑顔にするキャラクターは、ドラマ現場でも癒やしを与えている。もっとも、ほんわかした雰囲気の裏側では、入念な下調べを続けてきた準備の人なのだが、出演するTBS系連続ドラマ「TOKYO MER」(日曜午後9時)の現場では戸惑いの連続のようだ。アドリブも入る、臨機応変の対応が求められる現場での成長について聞いた。

★レギュラー5本

テレビでは見ない日がない売れっ子だ。ゴールデン帯を中心にレギュラー番組は5本。さらにモデルのレギュラー5誌にCM出演。愛くるしい笑顔を見せる一方、女優にも挑戦している。「TOKYO MER」では、主人公の鈴木亮平演じる喜多見幸太の妹、涼香を演じている。喜多見の空白の過去がドラマの鍵にもなっており、重要なポイントとなる役だ。

「演技はほぼ初めてといっていい挑戦です。お話をいただき、私にできるのか、マネジャーと何度も何度も相談しました。現在の仕事も大切で影響が出るのは困るし。日曜劇場は私も大好きなドラマの枠なので、妥協もしたくない。でも、演技が未経験な私を指名してくださったので、その思いに応えようと、頑張ってみようと考えました」

佐藤といえば、いつも目尻を下げる笑顔が浮かぶ。同作の第1話でも、喜多見の自宅に同僚が集まるシーンで、涼香は笑顔を振りまく。緊迫した医療現場が多い中、唯一、笑顔が広がるシーンだった。鈴木が「ほかのシーンは壮絶。唯一、みんなが笑顔のシーンなんだ」と声をかけてくれたという。「ホッとしているシーンになったらいいな。癒やされたらいいなと思いながら演じました。いっぱいいっぱいでしたけどね」。

とはいえ、癒やしだけ求められるわけでもない。第5話では、妊婦が倒れ、母体も危ない現場に遭遇する。妊婦役の汗だくの熱演に接し「赤ちゃんもお母さんも助からないかもしれない」と悲しくなってしまったという。自然と涙が止まらない。リハを終え、本番前に監督から「泣いてしまったら、妊婦も心配する。このシーンは涼香の芯の強さをみせるところなんだ」と指導された。「そうか、佐藤栞里ではなく、私は涼香だ。感情移入してはダメなんだと思い直しました」。

その表情はこれまでにない、佐藤の違った一面を見せる。監督からも合格点を与えられると「いや、今、優しい言葉をかけられると、また涙がでてくるので、やめてくださいと、言いました」。マネジャーからは「あんな表情はこれまで見たこともなかった」と言われたという。

★試される瞬発力

それでも、女優としての切り替えは分からない。セリフはもちろん、自分の中でシミュレーションした上で撮影に臨むが、その限界も感じている。「現場に入って、相手との会話で涼香を作り出してくれる。こんな表情するんだったらもっといけるとか、こんな芝居をするんだったら、それに合わせて言葉が出る感じというか、ドラマは準備がきかないと感じています。準備が通用しない、瞬発力が試される空間というか。アドリブへの対応も含めて、役者さんってすごいなって思います」。

★「ハシゴ」人気

佐藤がブレークしたきっかけの1つが、日本テレビ系「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」(水曜午後7時56分)だった。番組内のワンコーナー「朝までハシゴの旅」で見せる、飲みっぷりのよさや、涙もろさ、下ネタも大笑いで乗り切る陽気さなど…。画面からにじみ出る人柄が、茶の間の心をつかんでいった。

「お酒は決して強くないです。家族と一緒に串カツ屋さんに行って飲むくらい。でも、お酒を飲んで楽しむロケだなんて、なんて楽しい仕事なんだろうと思いました」。佐藤は大口を開けて笑い、勧められるまま杯を重ね、気取ったところは全く見せない。

そんな天然な素顔が受け、好感度が高くなったのだが、実は、準備の人でもある。「どうしたら一般の人に楽しく飲んでもらえるのか。お客さんに笑顔になってもらえる話し方はどんな言葉なのか。過去の作品を見て、自分なりにシミュレーションを毎回しました。性別や年代によって、話を振る内容や口調などを考えたりしました」。素直で素朴な性格は本人そのものなのだが、常にできる限りの事前準備をするのも、また佐藤の生真面目さなのだ。

★渡部後を任され

番組に出たてのころ、ロケの翌日は休みにしていたという。朝の6時までハイになっており、ロケ終了後は、ぐったりすることが多かったからだ。

その後「朝までハシゴの旅」は卒業、15年秋から、所ジョージの隣でサブMCを務める。先月には同番組の25周年記念スペシャルが放送された。「朝まで-」を卒業する際、スタジオでの突然の通告だったので、佐藤は涙が止まらなかった。せっかくのお気に入りの仕事が“クビ”になってしまった、と思ったから。実際はサブMC就任で、後にうれし涙に変わるのだが、そんな佐藤の泣き顔と笑い顔が再び放送された。「この時の収録でも、悲しくなって泣いてしまって。家でオンエアを見ても、また悲しくなって泣いてしまいました」。

TBS系「王様のブランチ」ではメインMCを務める。アンジャッシュ渡部建の後を1人で受け継ぐ。「もうへっぽこMCなんで。すみません。ただ、1人に任せるのではなく、みんなで作ろう、支え合おうという感じなので助かっています。私がへっぽこなので、例えばゲストに詳しく話を聴けなくても、代わりに助け舟を出してもらったり、本当に助けてもらっています」。

それでも、前述したように佐藤は準備の人だ。ゲストの映画や書籍などは当然目を通すし、下調べも欠かさない。そんなノートはすでに、20冊を超えた。最初の頃は初対面の芸能人、有名人も多く、プロフィルだけでノートはいっぱいになった。

「生真面目? いや、そんなのではなく、自信もないし毎日が不安で、あるのは緊張だけ。このノートはそんな私を助けてくれるお守り。これだけ書いたら、準備したから大丈夫だと自分に思い込ませているんです。ありがたいことに、初めましての方も少なくなってきて、プロフィルは少なくなってきましたね。でも、反省の部分はあいかわらずです」

こんな生真面目さに、ストレスがたまるのではと、老婆心ながら心配してしまう。だが、それも含めて彼女の持ち味なのだ。「周囲には信じられる人がたくさんいますから」。最後に、この日最高のとびっきりの笑顔を見せてくれた。【竹村章】

▼「TOKYO MER」の渡辺良介プロデューサー

涼香という役は、兄同様に純朴でまっすぐな性格です。助けが必要な方に献身的に手を差し伸べる心優しいキャラクターを考えたとき、佐藤栞里さんが真っ先に頭に浮かびました。受けてもらえなかったら役柄も変わっていたかも。慣れないドラマの現場でひたむきに、深夜までの撮影にも笑顔でスタッフを癒やしてくれていることに感謝です。元々、演技をされていたかのようなナチュラルなお芝居で、日ごとに成長がうかがえます。

◆佐藤栞里(さとう・しおり)

1990年(平2)7月27日生まれ、埼玉県出身。ファッション誌「ピチレモン」のオーディションでグランプリを獲得し、モデルデビュー。現在も「MORE」など5誌に登場する。テレビのレギュラー番組は日本テレビ系「有吉の壁」「ヒルナンデス!」など5本。趣味は立ち食い、サザンオールスターズ、高校野球、漫画、銭湯。168センチ。スリーサイズはB78-W59-H85センチ。

◆「TOKYO MER~走る緊急救命室~」

TBS系7月期の日曜劇場(日曜午後9時)。鈴木亮平演じる救命救急医がリーダーを務めるTOKYO MERを中心とするヒューマンドラマ。出演は賀来賢人、中条あやみ、要潤、菜々緒、仲里依紗、石田ゆり子ほか。

(2021年8月15日本紙掲載)