シンガー・ソングライター山崎まさよし(49)が、デビュー25周年の締めくくりを迎えている。22日には、メモリアルとなるアルバム「STEREO 3」を発売。現状と向き合い、生みの苦しみも味わいつつ、「あっという間」だったという25年の時をへて、音楽、そして歌声をこれからも奏でていく。

★忌野清志郎さんの声

「根は人見知りなんです」

インタビュー中、目が合っても、そう長くは続かない。25周年イヤーも締めが近づいているが「周りは担ぎ上げたいというのがあると思うんですけど、僕は担がれるのが好きじゃないので…」と照れ隠しした。

昨年9月に、デビュー25年を迎えた。同年2月から予定していたツアーは、コロナ禍でほぼ中止となり、アルバム制作に取り掛かるようになった。時間は出来たが、ライブという“目的”も一時的に失った。

「ギターとかピアノとか弾かなくなるというか、目的が断たれると人間は本当に何もできないんだなと思って…。だったら目的を作るしかないと。ただ、今まではアルバムを作るにしても独りよがりでやってきたけど、もう年齢も年齢なので、1人でやるより、誰かプロデュース的な人を立ててた方がいいかなと」

所属する「オフィスオーガスタ」の創設者(現最高顧問)で、山崎を見いだした森川欣信氏にアドバイスを請うた。「Hello ヘヴン」では、忌野清志郎さんの声を重ねた。かつて、RCサクセションのディレクターを務めていた森川氏のアイデアだった。

「清志郎さんの声を使うなんて恐れ多くて、突拍子もないようなアイデアは僕は全然思いつかない(笑い)。僕が見ている観点とはちょっと違うんですよね。だからそういったセッションというか、感覚がすごくおもしろかったですね」

自身のYouTubeチャンネルでも展開している「DIY」をテーマにした「斉藤さん」の斉藤とは、デビュー前から親交が深い斉藤和義(55)のこと。

「せっちゃん(斉藤のこと)も自分でギターを作ったり、共通点があって。メロディーラインもせっちゃんの曲みたいやなって、仮タイトルを『斉藤さん』としていたので、そのまま(笑い)。一応、電話はしました。付き合いはデビュー前からで、一番長い。お互い切磋琢磨(せっさたくま)してというか、励みになるんです。あの人が頑張ってくれてると、俺も頑張ろう! みたいな」

★娘がコーラス参加

「泣き顔100%」では年長になる娘の“コーラス”も入れた。

「自宅のスタジオで作業をしていると、よく遊びにくるんです。この曲は娘の声かなって。『ここ一緒にお父さんと歌ってくれへんか?』って。少し興味があるみたいで」

アルバムの最後を締めくくる「Updraft」は、タイトルの“上昇気流”の通り、現状を打ち破るような骨太ソングだ。

「コロナ禍になって最初に書いた曲。やっぱりシンガー・ソングライターみたいなこういう仕事をしてると、そこに触れざるをえませんよね。避けては通れない。自分のケツをたたいてるみたいな曲です」

25周年という節目にくしくもコロナ禍が重なり、生みの苦しみも味わったが、今の世の中も反映した作品が仕上がった。

「手を替え、品を替えでやれるんだと。やっぱり商品価値がないものを発売するのは失礼だと思うんですけど、最終的にスタッフに認めてもらえるクオリティーの作品ができたというのは、25年の積み重ねなのかな…なんて思ったりなんかして」とやっぱり照れた。

★60歳も変わらずに

CDから配信へ。ソフト面もハード面も、音楽業界を取り巻く環境はこの25年でガラリと変わった。それでも山崎自身の“モノ作り”へのこだわりは、変わることはない。

「やっぱりモノ作りで勝負したいですね。アナログ盤にするとか、ハイレゾリューションにしてダイレクトカッティングするとか、そこに価値もつけて。パフォーマンスできるうちはパフォーマンスするし、ソフトの形が変わっても、やっぱりいい歌を書きたい。そこは意地です」

そうこだわれるのは、音楽という軸がブレないからこそだ。

「演奏している時、歌っている時が、一番ダイレクトに幸せを感じます。アマチュアの時も、ライブでやるために曲を書いてましたし。お客さんの前でいいパフォーマンスができている時、おもろいMCを言ってる時…(笑い)。そこしかないですね!」

12月に50歳を迎える。

「それこそ五十肩とかテニス肘だとか、さすがに節々がきてるんで…。おきゅうを自分でやるんですけど、ネットでどこがツボなのか調べてみたり(笑い)。ストレッチポールで肩甲骨をはがしてます」

音楽に終わりはないと、新しい発見を追い求め、これからも歌い続ける。

「例えば60になっても、おそらく今とやってることは変わらないと思います。うまいこと、何とかすり抜けて25年たって、自分でもちょっとよく分からないところもありつつの25年で、これで良かったの? という自問自答もあったんですけど、それでも四半世紀やってこられたということは、何かしら需要があるんだろうなと思います。それがあるうちは、体力が続く限り応えていきたいです」

実際に60歳、70歳を迎えた時は、どんな“おじいちゃん”になっているのだろう。

「威厳があるような人にはなりたくないですね。変に人から、恐れられたくない。それはもう、20代の時には自分で壁を作ってたんで(笑い)。いまさらそんな壁を持ちながら歩くのもしんどいし、個人的にもSNSとかをやっているわけではないので、発信する窓口というのは“山崎まさよし”の1つしかないので、近寄りがたいのも損。それに…そんな頑固ジジイがいたら、嫌でしょ?(笑い)」

一向に目は合わないが、柔和に語るその視線は、いつでも真っすぐだ。【大友陽平】

▼親交が深いシンガー・ソングライター斉藤和義(55)

山ちゃんと初めて会ったのは、たぶん92年頃。とあるフォークイベントでお互いデビュー前の新人代表みたいな形で出演した時でした。大御所たちがわんさかいる楽屋でお互い居場所がなくて話したのが最初。バンドブーム全盛の中、弾き語りしてるやつも周りにいなかったので「あ、いた!」って感じでした。そんなに頻繁に会うわけじゃないけど、会ったらトコトン飲む。山ちゃんはいつも飲みすぎだけど…。なんでも最近、「斉藤さん」なる曲を書いてくれたそうで、「タイトルに使ってええ?」って電話もらった。あざます。光栄です。状況が落ち着いたら久々飲みたいね。アルバム完成おめでとう!

◆山崎(やまざき)まさよし

1971年(昭46)12月23日、滋賀県草津市生まれ、山口県防府市育ち。95年9月25日にシングル「月明かりに照らされて」でデビュー。97年公開の主演映画「月とキャベツ」の主題歌「One more time,One more chance」がヒット。「セロリ」「僕はここにいる」などヒット曲多数。19年には映画「影踏み」で主演、主題歌、サウンドトラックを担当し話題に。現在、YouTube公式チャンネルでは「DIY」やギターの弾き方講座も。176センチ。血液型A。

◆「STEREO 3」

96年、97年発売に続く“プライベートアルバム”シリーズの第3弾で、2年ぶりのオリジナルアルバム。昨年発売のEP「ONE DAY」に収録の「Updraft」など2曲と、書きおろしの8曲を加えた全10曲。22日発売。

(2021年9月12日本紙掲載)