9歳で役者の道に入り、24年たった。濱田岳(33)。テレビ東京系連続ドラマ「じゃない方の彼女」(11日スタート、月曜午後11時6分)では、目立つことのない人生を送ってきた「じゃない方」男性役で主演する。自身の生き方も役柄に重ね合わせて笑うが、今やその演技力で数々の作品に引っ張りだこだ。もうすぐ俳優人生四半世紀。デビュー時から、大切にし続けていることがあるという。

★他人の台本借り

朗らかな表情に、おっとりとした口調。時折、冗談を交え、笑いを誘いながらもしおらしく語った。

秋元康氏が企画・原作の「じゃない方の彼女」は、お笑いコンビの目立たない方などをさす際などに使われる、いわゆる「じゃない方」にスポットを当てた不倫コメディードラマ。濱田は、どこにでもいる普通の人生を送ってきた「じゃない方」男性、小谷雅也を演じる。

「このポジションでドラマをやらせていただけるっていうのは、素直に感謝するべきことですし、何より、“じゃない方”として生きてきて良かったなって素直に、客観的に思います」

自分自身もがっつくことなく、割り切って生きてきたというから面白い。

「空前のイケメンブームがあった時もそうだったんですけど、みんな一様にイケメンを目指している時に、“三の線”の椅子が余っていたから、そこにちゃっかり座った。隙間産業として生きていこうと思っていたので(笑い)。がつがつしている人が隣にいたら『そうですかどうぞ』って譲っちゃうタイプですかね」

役作りは、現場に入ってから。台本は、セリフを覚えるだけのものだという。

「すてきなお芝居だなって思ったらそれを受ける立場として、それ以上の美しさにしてあげたいので、感情の起伏やニュアンス、動きは現場に立ってから決めることの方が多いです。セリフは、他人の台本を借りて覚えたりもします。世界史の試験前みたいな感覚でぶつぶつと覚える。台本にはこだわりも持ってないですし、付箋もつけない。まっさらですね。いつでも転売できるくらい。転売しちゃダメですけど(笑い)」

同ドラマでは乃木坂46山下美月(22)演じる、あざとかわいい怜子が、魅惑的な言葉やしぐさで雅也を誘惑するというシーンも見どころのひとつ。

★男子中高生の夢

「夜更かしをしている男子中高生にとっては、夢が詰まった話だと思います。男子中学生が妄想する全てが詰まっている。突然、縁もゆかりもない美人から告白されるとか。僕も中高男子校育ちだったんですけど。みんな毎日学校でそんな想像ばっかりしてましたからね。きれいごとじゃなく、結構夢や希望を与えられるお話だと思います」

★9歳でスカウト

9歳の時、東京ドームの野球観戦帰りにスカウトされ芸能界入りした。子役として98年にTBS系連続ドラマ「ひとりぼっちの君に」でデビュー。万引を繰り返すが優しい、両親がいない少年という難役を演じきり、いきなり才能を開花させた。

「右も左もわからないままドラマの撮影現場に行くこともありました。そのときは学校か、家庭か、っていうコミュニティーしかなかったので、いきなり大人の世界に混ぜてもらえたのはもう、毎日刺激的でキラキラとしていました」

中高時代ラグビーに打ち込んだが、04年TBS系ドラマ「3年B組金八先生」に生徒役で出演したことを契機に俳優に専念。11年には日本テレビ系「ピースボート -Piece Vote-」で連ドラ初主演を飾った。

「僕らの仕事は脇役を10本やったからといって次、主演が1本決まりますとか、わかりやすい目標というかノルマがない。お客様が見てくれて、お客様がどう思うか。だから自分の頑張りとか泥臭さっていうのはお客様にはなんの関係もない話で。作品ごとに就職をして、作品が終わったら無職になって、また就職をしてっていう、そういう感覚の繰り返しでした」

間を空けることなく走り続けた。どんな役でもこなす演技力と親しみやすいキャラが人気に。07年の映画「アヒルと鴨のコインロッカー」、15年のテレビ東京系連ドラ「釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~」など主演作が次々話題となった。現在も数々のドラマ、映画に出ずっぱりだ。そんな状況も楽しんでいる。

「うだうだしていたら、今日まで続いていた、みたいな。『よく続いているなあ』『よく続いたなあ』っていう感じです。つらくて辞めたいっていうのはなかったですね。自分に課してるわけではないですけど、楽しさが変わってないです」

★僕だけの金太郎

CMの世界でも15年から出演しているauの「金太郎」役などでおなじみだ。

「金太郎とシンクロすることなんてないですけど(笑い)。僕にしかできない金太郎にしなきゃいけない。それが僕のお仕事だと思っているので。目指すのも仕事の面白さだったりしますしね」

★来年芸歴25周年

どんな役もこなしてきた。モチベーションはどこにあるのか。

「9歳の頃と同じ感覚で現場が好きだとか、現場が楽しい、ということですかね。語彙(ごい)力はだいぶ増えましたけど、そんなに変わっていないというか。みんなと1個のドラマや映画を作るために、自分なりに考えて現場に立たないとなっていうのは変わってないです。大きな山あり谷ありな俳優人生だったかというと、違うかな、という感じで。現場がかすんでみえるようになったら辞め時かな、と思いますね」

来年で芸歴25周年。節目の年を迎える。

「ずっとつれづれなるままに流れていこうと思っていた。流されると、それはちょっと水難事故っていうか、流されるのと流れるのとでは僕の中では意味が違う。意思を持って流れていくことは大事。自分自身どう流れていけるのかなっていうことが、客観的にみて楽しみだなって思います」

仕事のゴールは「濱田岳と仕事をして良かったと言われること」だと話す。

「ドラマを作っているチームって、僕だけを撮りにきているわけではない。ストーリーを作りにきているので。僕にできる仕事って誰もが思い付かなかったお芝居を、より面白いシーンにすること。僕に任せてくれて、『頑張ります』って答えた以上は、僕にしかできない芝居を。それが僕の仕事だと思っています」

デビュー当時と変わらない純粋な「現場が楽しい」という気持ち。これからも濱田のペースで突き進んでいく。【三須佳夏】

▼「じゃない方の彼女」木下真梨子プロデューサー

真面目で優しい雅也を演じる濱田岳さんは、現場でも共演者やスタッフへさりげない気遣いとユーモアで常に現場を盛り上げてくださる方です。山下美月さんとのキュンとするシーンや妻にバレるのでは? とドキドキする場面が多いので「何も考えずに、ふざけたシーンを撮影したい!」と言うくらい女性陣に翻弄(ほんろう)されています。濱田岳さん演じる雅也が、なぜか憎めないのは、ご本人の持ってる温かさがにじみ出てるからだと思います。

◆濱田岳(はまだ・がく)

1988年(昭63)6月28日、東京都生まれ。06年「青いうた~のど自慢 青春編~」で映画初主演。ドラマは14年NHK大河「軍師官兵衛」、同フジテレビ系「HERO」、17年NHK連続テレビ小説「わろてんか」、19年テレビ東京系主演作「フルーツ宅配便」など。映画も14年の主演作「偉大なる、しゅららぼん」、16年「信長協奏曲」など多数。昨年、主演作「喜劇 愛妻物語」などが評価され「第12回TAMA映画賞」最優秀男優賞受賞。11年7月、モデル小泉深雪と結婚。12年長女誕生。160センチ。血液型A。

◆テレビ東京系「じゃない方の彼女」

目立つことのない人生を送ってきた大学准教授・小谷雅也(濱田)が魅力的な女性に出会い、翻弄(ほんろう)されながら道ならぬ恋の沼に沈んでいく姿をコミカルに描く。共演は山下美月、山崎樹範、小西真奈美、YOUら。

(2021年10月10日本紙掲載)