俳優間宮祥太朗(29)の勢いが止まらない。フジテレビ系4月期ドラマ「ナンバMG5」で、地上波のゴールデン・プライム帯ドラマに初主演したのをはじめ、今年は3期連続で連ドラに主要キャストとして出演。今月8日には島崎藤村の名作を60年ぶりに映画化し、初の文芸作品への挑戦となった主演映画「破戒」(前田和男監督)も公開された。“仕事が途切れない男”と呼ばれる、ゆえんを探った。

★野球辞め転機

間宮は今、今年3本目の連ドラとなるフジテレビ系「魔法のリノベ」(18日スタート、月曜午後10時)の撮影に臨んでいる。演じるのは、2回の離婚歴があり7歳の息子を養うシングルファーザー役。1月期のTBS系ドラマ「ファイトソング」で一発屋のミュージシャンを演じた。「ナンバMG5」では、ヤンキー一家の生まれを隠し、普通高校に入学した高校生役を務め「撮影現場で泣いたのも初めて」というほど特別な作品になった。振り幅の広い演技への評価は以前から高かったが、その源はどこにあるのか。

「駆け出しの時に真ん中じゃなかったから、というのが大きいんですよね、やっぱり。10代後半とかでポンと売れて主役、主役、主役っていうことじゃなかったから。いろいろな作品の脇でスパイスになってきた結果、こういう人というイメージがつかずに、いろいろな方面に足を延ばして、やってこられたのかな、と。自分の今までしてきたこと、やってきた作品、役に、すごく今は納得がいっていて…良かったと思う部分は、たくさんあるんです」

目指す俳優のイメージは、あるのだろうか。

「ないですね。1つ、あるとしたら、この人が出ているから見たいとか、名前が作品の中に入っているから面白そうとか…シンプルに。それが一番、目指すというか大事にしたいと思います。ずっと前からそうですけど、自分が作品を選ぶ時の指針でもあったんで」

俳優の道に進む、きっかけは野球をやめたことだ。

「小学校から中学3年に上がる手前まで、ずっとこれをやりたいんだと思っていた野球をやめたタイミングで、自分が明白に、これをやりたいというものを失ったわけじゃないですか。これをやりたいんだってものは、何だろうな? と思いながら、音楽を聴いたり、ギターをやってバンドやって、名画座とかミニシアターに通ったりしていた」

今の事務所に入り、俳優を始めたのは縁だと語る。

「中学の先輩に連れられて載った雑誌を、テレビ局のプロデューサーの方が見て、たまたまご縁があって今の事務所に面接する話があった。明白に役者をやりたいというんじゃなかったんですけど、若かったこともあって、リスクをあまり考えなくてメリットしかないって思っていた。ただの中学生でいるのと、見習いか、始めたてだけど15歳で役者になる(ことを比較して)、この距離って大きな一歩だと思ったんで飛び込んでみたというのが、始まりの正直なところですかね」

★瀬川丑松を演じて

「映画が好きじゃなかったら、この業界に入っていない」と語る間宮が巡り合った、初の文芸作品が「破戒」だ。1906年(明39)の島崎藤村の小説を、48年に木下恵介監督が池部良さん、62年には市川崑監督が市川雷蔵さん主演で映画化。60年ぶりの映画化だが、気負いはなかった。

「(2作品は)撮影に影響しないよう終わってから見ました。自分の中で並ぶという意識を持っていない。木下監督と市川監督の作品がつながっていて、もし今回もつながるんだったらそう捉えたかも知れないですけど、1つの原作を共有する3本の映画なので。逆に60年ぶりで良かったのかな」

演じる瀬川丑松は被差別部落出身を隠し、地元を離れ小学校の教員を続けるも最後に生徒の前で告白する。現代に上映する意味を感じオファーを受けた。

「差別のことを授業で良くないと習い、勉強として頭には入ってくるんだけど感触として実体が、よく分かっていなかった。でも、今はSNSが発達したのもあって差別、ハラスメントが国境に関わらず議論になっている。見る人たちがいる環境、知っている物事、生きている日常が、新作として思考する状態になってくれるんじゃないか、若い世代も手触りみたいなものが、すごく感じやすくなっているんじゃないかなと」

出自に悩む心を抑えるような定点観測的な視線をはじめ、新境地と言っても過言ではない演技を披露。自ら「素直に良い映画だと思えて幸せだった」という。

「自分がこれだけのシーン数に出ているものって、もう少し(演技の)ニュアンスを抑えても良かったのかなとか気にはなるじゃないですか? 映画を純粋に見る上では邪念なんですけど。不思議と、そういうのがなく見られた。1人の観客になったような気持ちで、良い映画だと思えた」

文芸作品ということで意識したポイントがあった。

「セリフの響き方ですね。原作があって台本に起こした時の、せりふの美しさがあるから、それを自分の発声というか、吐くことによって壊しちゃいけないという気持ちがありました」

丑松に恋心を寄せる丸山志保を演じた石井杏奈(23)との共演シーンで日本映画の良さを感じ、系譜を継ぎたいと思ったという。

「丑松がたたずむ廊下に志保が来るシーンを思い浮かべ、漂う空気、2人の間の本当にささいな心の揺れみたいなものが、やっぱり日本映画。すてきだと思いました。(日本映画を担う俳優に)もちろん、なれるといいなと思いますね。まずは(作品に)呼んでいただけることが全てですが」

★結婚願望は…

互いに心を寄せ合う、丑松と志保を演じ、結婚願望は湧いたのだろうか。

「この2人を演じたから、どうこうというよりは、この映画にも出ている、すごく仲がいい矢本悠馬が結婚したのは、自分だけじゃなくて、友人かいわいでも『こうして大人になっていくんだ』みたいな…。何か青春の1つの区切りというか、節目じゃないけど、ずっと毎日、遊んでいた、あいつが…みたいな思いにはなりましたし。菅田将暉の結婚も17、18歳から知っている友人の1つの大きな決断として、やっぱり思うところはありましたし。だんだんと、そういう年齢というか。悠馬なんて子どもも…とかね。そういうところで思う部分はありますね」

来年は節目の30歳。人生のビジョンを聞いた。

「(人生設計は)ないですけど、20代前半に比べ本当に、ちゃんと生きようという意識が増えましたね。ちゃんと生きて、できれば長く…まぁ、何が起こるか分からないんですけど」

自らの目で見詰め、心に問いかけ、感じたものに真っすぐに進む…その先に、間宮祥太朗の道は開ける。【取材・村上幸将】

▼「破戒」で丑松の同僚・土屋銀之助を演じた矢本悠馬(31)

5、6回目くらいの共演で(役も)親友というポジションが多い中で今回も同僚役。祥太朗が現場で演じるだけで、僕は何もせず銀之助になれ役作りの工程に全くストレスがなく芝居だけに集中できた。僕らの今までやってきた芝居でも最高の仕上がりになっていると思います。特に僕らのプライベートの親交の良さが、いい方向に出た。でも、やっぱり仕事場に友だちがいるのは、こそばゆい…照れて芝居を邪魔してくる感じ。もしかしたら、これが最後かな(笑い)。

◆間宮祥太朗(まみや・しょうたろう)

1993年(平5)6月11日、横浜市生まれ。08年の日本テレビ系ドラマ「スクラップ・ティーチャー~教師再生~」で俳優デビュー。17年「全員死刑」で映画初主演。18年にNHK連続テレビ小説「半分、青い。」に出演し人気に。20年「麒麟がくる」で、NHK大河ドラマ初出演。近年の主な映画は、19年の主演作「殺さない彼と死なない彼女」や昨年の「東京リベンジャーズ」など多数。179センチ、血液型O。

◆「破戒」

丑松は生徒に慕われる良い教師だったが、出自を隠すよう亡父から受けた戒めに苦悩しつつ、士族出身の志保との恋に心焦がした。傾倒する被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)が暴漢に襲われたのをきっかけに決意を胸に最後の教壇に立つ。