「会社は戦場だ」。最近はまりにはまっているドラマの中でのセリフ。そのドラマはNetflixで配信中の韓国ドラマ「ミセン-未生-」。2014年に韓国で放映され、日本でもBS朝日で放映された後に「HOPE」と名を変えてリメーク(中島裕翔主演)。リメークの段階ですでに5年前なのでかなり遅れているが、最近になって再ブームがきている。

鑑賞するきっかけとなったのは週刊誌のレビュー欄であったが、そのあとすぐに知り合いからも勧められ、これまた韓国ドラマ「スタートアップ:夢の扉」が中だるみしていたこともあり視聴開始。事前情報では、囲碁のプロ棋士になる夢を諦めた青年が、大手総合商社のインターンになり活躍していく話。会社員経験はないものの、プロ棋士を目指していたほどの秀才なこともあり、日本のドラマ「ハケンの品格」みたく、問題をバシバシ解決していく爽快なドラマなのかと思っていたが、予想は大きく外れる。

随所で勝負師たる行動は見せるものの、基本は総合商社に入った新入社員たちの苦労と成長が描かれる。ここで少し自身の話を。25歳まではフラフラとフリーターをやっていたが、このままではと思い就職したものの、いわゆるテレアポ営業の軍隊みたいな会社。半年ほどで辞めた後、20代後半で大手広告会社の派遣社員(後に正社員)となる。

それまで自己流で仕事をして多少の自信があったものの、そこは大手。新入社員さながらに怒られまくる。メールの宛先の順番や会議での座り場所に始まり、いわゆるビジネスルールを事細かく指導され、ほぼ毎日終電で帰り、週に何度も徹夜で仕事をしていた。今でも大変な時に、あの時に比べればと思うほど貴重な時間であったことは間違いない。そして当時の上司に今すごく感謝している。

さて本題。今回取り上げるのは、「ミセン-未生-」で主人公(チャン・グレ)の上司であるオ・サンシクを演じるイ・ソンミン(53)。大手総合商社の課長役なのでパリッとしているかと思いきや、風貌はさえない中年男。リメーク版では遠藤憲一だったらしいが、日本でいえばマキタスポーツか塚本晋也だろうか(すみません)。

敵対?する専務のコネ入社な上、社会経験のないチャン・グレを毛嫌いし最初はきつく当たるのだが、徐々にその真っすぐな姿勢に共感し、よき理解者となっていく。初見の俳優さんだがめちゃくちゃにいい。いい役だといえばそれまでだが、会社での立ち居振る舞いはじめ、ベロベロに酔って家に帰って奥さんに怒られている姿ですらいとおしくみえる。

それは仕事に対して、人に対して真摯(しんし)な姿が画面から十二分に伝わってくるからだと思う。最初に紹介したセリフ「会社は戦場だ」。新入社員にとって社会で生き抜くすべを学べるのが新入社員の時期なのでそれは当たり前に厳しく、また自身の命を預けられるリーダーがいるかどうかも重要である。その点、イ・ソンミンは間違いなく理想の上司だといえる。残念なことにNetflexでの配信が今月中とのこと。新社会人の人にはぜひ、オ課長とともに会社という戦場を体験してほしい。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。20年11月28日には最新作「渋谷シャドウ」も公開。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)