当たり役。ブレイクする俳優には必ずきっかけとなる役がある。ラッキーなことに最初からつかむものもいれば、長いキャリアを積んだあとに、偶然に出会うケースもある。

役が見た目通りであれば比較的早く気付けるが、本人がもっている内面の部分や芝居の性質であれば遠回りすること必須である。また、自身では気付きにくく、良い監督や演出家が見いだすケースも多い。ああいう役だとあの人だよね、と言われ始めれば俳優としてひとつの成功なのだと思う。もちろんどの役にもなじむカメレオン俳優もいいが、まずは〇〇役のスペシャリストを目指すことをおすすめする。

さて、1月クールのドラマは中盤を迎え、徐々に物語の真相が明らかになるとともに、俳優の評価もまとまってきている。まず衝撃を受けたのが金曜ドラマ「妻、小学生になる。」の毎田暖乃(のの)ちゃん。10歳なのでちゃん付けさせてもらったが、本当にすごい。堤真一演じる主人公の妻(石田ゆり子)の生まれ変わりというなんとも難しい役どころを堂々と演じている。キャリアはもちろん数年しかなく、朝ドラで見いだされたとのこと。

天才子役はこれまでたくさん出てきたが、あくまで子役の中の話。一流どころの堤真一や蒔田彩珠との絡みを見ているとすごい子が現れたと誰もが思うのではないか。おなじみのサッカーで例えると、2019年にFC東京に出戻ってきた久保建英をほうふつとさせる。高校3年生にしてJ1チームを引っ張る存在であった。先輩子役の芦田愛菜が順調に育つ中、彼女もまた大女優の道を歩んでいくのではないかと予想する。

さらにもう一人紹介したい。ドラマ「ケイ×ヤク-あぶない相棒」に出演している犬飼貴丈(あつひろ、27)。仮面ライダービルドで主演後、朝ドラ「なつぞら」では吉沢亮演じる天陽の兄を好演。バラエティー番組などで見せるオタクで天然な一面も含め、どちらかというと優男のイメージが強い。

それが今回のドラマでは、鈴木伸之演じる公安捜査官のバディを務め、その役柄はヤクザ。どう考えても鈴木のほうがその手のイメージがあるが、ドラマでの役割は逆。しかも指定暴力団の若頭を務め、板尾創路演じる総理大臣とも愛人関係にあるという、全くスッと入ってこない設定だが、芝居自体はかなり魅力的である。

背中全面に入れ墨を入れ、舎弟を2人引き連れ、バディになる前の鈴木伸之に相対する姿は、本来もっている艶っぽいところに、一瞬みせるその凶暴性がなんともはまっている。前段の当たり役の話になるが、おそらく今後この手の役のオファーがたくさん来ると思われる。素の彼を見てきた事務所やマネジャーはいい意味で誤算であろう。

最近は少なくなったとはいえど、昨年ヒットした映画「孤狼の血 LEVEL2」「すばらしき世界」「ヤクザと家族 The Family」など、まだまだ需要のあるジャンルなのはたしか。いつかその道の帝王と言われる日がくるのかもしれない。その時はいち早く目を付けていたと自慢したい。今後の活躍に注目です。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。2月17日からは東京・渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールで演出舞台「政見放送」が上演される。