2時間ドラマの帝王、俳優船越英一郎さん(56)が、激減した2時間ドラマ枠の復活を願った言葉です。2時間ドラマへの長年の功績で「第25回橋田賞」に輝いただけに、受賞スピーチも複雑でした。「絶対に、2時間ドラマは日本の文化から消してはいけないと思います」と思いを語りました。

 実際に、夜の2時間ドラマは崖っぷちです。先月、40年の歴史を持つテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」が終了したばかり。05年に終了した日本テレビ系「火曜サスペンス劇場」と合わせ、2大看板はすでにありません。テレ東の「水曜ミステリー9」もこの2月に終了しました。現在は、バラエティー特番と混在する形のTBS系「月曜名作劇場」があるくらい。全局に枠があった全盛期とは比べようもありません。

 土ワイと火サスがけん引していた80~90年代は、20%近い視聴率をマークすることもある人気コンテンツでした。各局が続々と後追いし、テレ東の参戦で全局に枠がそろった01年あたりが活況のピークといわれます。

 さまざまな素人探偵が事件に首を突っ込むトンデモ感をベースに、真相の告白は崖でする、出演者を見るとだいたい犯人の見当がつく、などのお約束が揺るぎない世界観。土ワイは崖率が高いとか、火サスは犯人を自殺させず必ず逮捕で終わるとか、それぞれの流儀もありました。各局に主演シリーズを持っていた船越さんが2時間ドラマの「帝王」、片平なぎささんが「女王」と呼ばれたのもこのころです。

 2時間ドラマの衰退について、テレビ局関係者は「連ドラ界に1話完結の事件捜査ものが増え、2時間サスペンスの存在意義が薄れた」。現在の春ドラマ界を見ても「緊急取調室」「CRISIS」「小さな巨人」など、夜8時~11時台までに放送されている18本のうち9本が事件捜査ものです。「相棒」や、放送中の「警視庁・捜査一課長」など、土ワイから連ドラ枠でシリーズ化される流れも定着しました。「1時間できっちり見せる手法に受け手も慣れ、スマホとの“ながら視聴”時代に2時間は合わない」という指摘もあります。

 ロケが多く、制作費がかかるのもテレビ局にはしんどいところ。放送日未定のまま撮了し、塩漬けやお蔵入りになるケースも少なくありません。予算的にも視聴率的にも、バラエティー枠に転換した方が得策で、現在に至ります。80年代あたりは、根津甚八×栗原小巻で松本清張ものとか、俳優も作品もスペシャル感満載のイメージだったのですが、火サスが終了した05年頃には、お約束の展開を踏んだシリーズものばかりになってしまった感じ。船越さん、片平さんに続く顔が育たなかったのも残念でした。

 「橋田賞」が船越さんに贈った選考理由は「2時間ドラマや単発ものでこつこつとまじめに役柄に取り組み、確固たる地位を築かれました」というすてきなものでした。いつかまた、誰かがこんなふうに表彰される時代は来るでしょうか。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)