大みそかに放送されたNHK紅白歌合戦で、サザンオールスターズと松任谷由実の競演という奇跡的なステージが実現したNHKホールから、総合司会の内村光良が大興奮で叫んだ言葉です。紅白で歌う人にとってここを超えるステージはないと確信している1人として、大いに共感できる言葉でした。コンサート会場や別スタジオからの中継では決して出せない紅白の一体感、緊張感、スケール感、ライブ感が目に見える形で炸裂し、勝手に“NHKホール復権”と解釈してわくわくしました。

第69回NHK紅白歌合戦で歌うサザンオールスターズ桑田佳祐(右)は松任谷由実と腰振りダンス(2018年12月31日撮影)
第69回NHK紅白歌合戦で歌うサザンオールスターズ桑田佳祐(右)は松任谷由実と腰振りダンス(2018年12月31日撮影)

平成最後の紅白を締めくくるサザンの「勝手にシンドバッド」。クライマックスでユーミンが桑田佳祐にキスをし、2人でお祭り感全開の即興パフォーマンスを繰り広げた時は、なんてぜいたくな光景なんだと圧倒されました。ハプニング的に実現したレジェンドの競演に、ステージ上に集まった全出場歌手も素で大喜びし、一緒に歌って踊って本当に楽しそう。音楽の力、紅白歌合戦の力を大いに見せつけ、平成最後の節目にふさわしい伝説回になったと思います。

実際、前日にサザンを囲んで行われたエンディングリハーサルから熱気がありました。リハの内容は、全出場歌手たちがステージに集まるタイミングや立ち位置の確認、「今何時!」の振り付けの練習など。サザンのリハではないため生歌ではなく音源を流す形で行われましたが、それでもサザンが35年ぶりに紅白のホールリハにいるというスペシャル感は圧倒的。現場は同じステージを共有する人たちのエネルギーに満ちていて、本番ではユーミンまで登場。桑田×ユーミンのライブ力を受け止めるNHKホールのフランチャイズ力に心躍りました。

故郷・徳島の美術館から大ヒット曲「Lemon」を届けた米津玄師さんのような素晴らしいパフォーマンスもあるので、一概に中継を否定はできません。でも、コンサート会場や海外のレコーディングスタジオからの中継など、必然性の薄い中継の場合、個人的には紅白歌合戦としての魅力は感じないんですよね。豪華さや会場の熱気は分かるけれど、ファンに囲まれた人の別の祭りを見学しているようで、紅白の感動とは違うというか。

リハを取材しているとよく分かるのですが、必ずしも自分のファンとは限らない観客を相手に、同じステージでパフォーマンスを競う出場歌手の真剣さは、それだけで絵になる唯一無二のコンテンツです。誰よりもいいステージを見せたいという自意識に新人もベテランもありません。ライバル意識やリスペクトから生まれる一期一会の見ごたえは、特別待遇では映し得ないものがあります。

第69回NHK紅白歌合戦で歌う松任谷由実(2018年12月31日撮影)
第69回NHK紅白歌合戦で歌う松任谷由実(2018年12月31日撮影)

歌手をサポートし、番組を作るスタッフもケタ違いです。総勢3000人以上のマンパワーが歌手と楽曲の魅力を引き出そうと演出を練り、1曲ごとに曲芸のような舞台転換をやってのけます。ぶっちゃけ、同局のエンターテインメント番組部が1年間に作っているさまざまな番組は、すべてこの紅白のためにあるようなもの。そもそも、NHK仕様で建てられたNHKホールほど放送に適した施設はありません。コンサート中の人気歌手を頼って中継を組みたくなる心理は分かりますが、紅白にとっては、やはりここが最高の舞台だと思うのです。

そんな醍醐味を、サザンやユーミンがいちばん理解しているのも感動的でした。別エリアでの「ひこうき雲」の後、裏動線からホールのステージに登場して「やさしさに包まれたなら」を歌ったユーミンは、どよめく会場に「平成最後のお祭りですから、みんなをびっくりさせようと思って」。別エリアではびっくりがないことを熟知しています。桑田さんも、ホールで歌う紅白について「何年たっても緊張しちゃいます」と特別感を語りました。「希望の轍」の名イントロだけであれだけ会場が沸くのを見て、私もウッチャン同様「NHKホールすげぇ!」と胸がいっぱいになりました。

サブちゃんも布袋も若手も、みんなかっこよかったですね。ジャンルを超えて人気歌手が一堂に会する紅白歌合戦の原点というひとときでした。米津玄師さんも、中継であれだけ受け手を感動させたのですから、次はぜひNHKホールで見たいです。平均視聴率は大台越えの41・5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。紅白のフランチャイズ施設としてのNHKホールのポテンシャルが大いに発揮された結果と感じます。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)