【先週の言葉】「ルパン。俺はそろそろずらかるぜ。あばよ」

アニメ「ルパン三世」シリーズの次元大介役からの卒業を発表した声優小林清志さん(88)のコメントです。71年の第1シリーズから半世紀にわたりキャラクターに命を吹き込んだ小林さんは次元そのもの。文字だけで次元の表情と声がしっかり浮かび、次元らしいこざっぱりとした別れの言葉がかっこいいです。

70年代の夕方の再放送で第1シリーズを見た世代ですが、第1シリーズはとんでもなくアダルトな世界観で、子ども心になんてかっこいいんだと背伸びして見たのを覚えています。低視聴率ゆえ、第2シリーズ(77~80年)以降、個々のキャラクターと世界観をファミリー層向けに路線変更して国民的アニメとなりましたが、あらためて振り返ると、次元は第1シリーズからほとんど変わっていないんですよね。

クールで大人のユーモアがあり、ルパンの相棒として唯一無二のガンマン。ダークスーツに中折れのソフト帽という造形も変わっていません。ルパンがジャケットの色の変化(緑→赤)とともに軽快なヒーローキャラに、不二子のセクシーが健康的に、五ェ門が女好きから生真面目キャラに、という中で、大きく変わっていない次元はかなり特別な存在です。

初登場は第1シリーズ第1話「ルパンは燃えているか…!?」。不二子が潜入するホテルを湖畔で監視し、「こっちはのんびりしたもんだ」とルパンと無線連絡する場面です。どの時代のシリーズに差し込んでもつながりそうなひとコマ。50年たった今も、シリーズにどこか初期のDNAを感じさせてくれる存在です。小林さんは、次元について「雰囲気はJAZZにも似ている」。やはり、音楽がジャズでかっこよかった第1シリーズがベースにあるのですね。

次元のいわゆる神回は第2シリーズに多い印象です。分解された銃を組み立てながら決闘する「荒野に散ったコンバット・マグナム」とか、驚異的な命中度がかっこいい見せ場になる「ターゲットは555M」とか。小林清志×池田昌子のやりとりが外国映画のような味わいだった「国境は別れの顔」も、声優の力を実感できるエピソードです。

「次元に男心の優しさを見た」では、「チップをはずむから勇気を分けてくれねえか」という名ぜりふがありますが、こんなせりふをさらっと言うのも小林さんならでは。個人的には、傑作回として知られる第1シリーズ第4話「脱獄のチャンスは一度」のラストシーンもおすすめ。最悪な展開でお宝を逃したルパンと次元が、げらげら笑いながら夕日に駆けだしていくシルエットがいかにも大泥棒の青春という感じで、C調な次元の笑い声もすてきでした。

後任には声優大塚明夫さん(61)が起用され、10月に日本テレビ系でスタートする「ルパン三世 PART6」から登場します。もう、これ以上ないだろうというナイスキャスティングで、きっと次元にぴったりだと今から心躍ります。

父である故大塚周夫さんは、第1シリーズの五ェ門の声優。「紹介しよう。峰不二子ちゃん。それがしのガールフレンド」みたいなちゃっかりした女好きキャラと、「女は斬らない」という仁義の躍動が本当に魅力的です。5話「十三代五ェ門登場」で敵キャラとして登場し、7話「狼は狼を呼ぶ」で仲間に。五ェ門大塚周夫の笑い声と「やっかいな仲間が1人増えたようだ」という次元小林清志の声のシンクロを覚えているだけに、あの時の次元を大塚明夫さんが引き継ぐのだと思うと、いろいろ感無量です。

大塚さんは「次元大介から清志さんじゃない声が聞こえてきたらイヤです。もしかしたら誰よりも。だからこそ、そんな自分さえも納得させ得る次元大介になろうと勝手ながら心に決めました」。子どもの頃から楽しませてくれた小林さんへの感謝とともに、新たに大塚明夫バージョンでどんな次元大介が動きだすのか、本当に楽しみです。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)