大詰めを迎えたNHK大河ドラマ「青天を衝け」の脚本を手掛けた大森美香さんが、このほどリモート取材会で語った言葉です。自身が手掛けた朝ドラ「あさが来た」(15年)に続き、今回もディーン・フジオカが演じた実業家五代友厚について、いつか主人公で書きたいとしました。「ディーン×五代さま」の魅力は鉄板だと思うファンの1人として、ぜひお願いしますと心躍ります。

「あさが来た」の放送当時、まだ日本では無名だったディーンさんの鮮烈なブレークぶりは今も記憶に残ります。五代友厚という人物も、それまでドラマで見ることがなかったマイナーな存在。両者の魅力を一気に世に出したのが大森さんの脚本なので、どう描いてもすてきな人間味になるのだろうと思うのです。

実際、「あさ」と「青天」では、五代さまの描かれ方がいろいろ違いましたが、どちらもそれぞれのかっこよさがありました。前回は大阪弁、今回は薩摩弁という大きな違いもありますが、今回は「あさが来た」では描かれなかった“幕末の志士”としての五代さん像が立ち上がり、男臭さ増量というか、骨太なオーラが印象的でした。

大森さんは「前回は、あさちゃんから見た五代さん。師匠と生徒みたいな関係性で、いいところでしか現れなくて、また去っていく役回り。今回は、渋沢栄一にとっての良きライバルであり、生涯の友という面で描けると思った」。渋沢(吉沢亮)とのバチバチの口論などもあり、“西の五代、東の渋沢”と称された人の「甘い顔じゃない顔」(大森さん)が大いに描かれたと思います。

不確かな新聞報道で“人民の敵”のような批判にさらされる晩年の「開拓使官有物払い下げ事件」も、違いがくっきり出ていましたよね。「あさが来た」では五代さまの名誉回復のためヒロインが奔走し、激アツな逆転劇となりましたが、今回は内臓に染み渡るような理不尽を淡々と受けとめる感じでした。「あなたは甘い」とする渋沢に、「豊かな日本」を夢見てどこまでもまっすぐなことを言うくだり。こういうところは前回も今回も何も変わっていなくて、やっぱり五代さまだなあと思うのです。

そんな五代さんは、先週放送された37話で死去。病で足も目も悪くなった最晩年の姿も、前回は描かれなかったところです。栄一の肩に手を置き、その先導で最後の大舞台に臨むスローモーションのシーンは、見ていて胸がつぶれるようであり、その品格にほれぼれでもあり。「青天白日、いささかも天地に恥じることはなか」という晴れ晴れとした最期は、ディーンさんならではの名シーンでした。

どちらの五代も魅力的に演じたディーンさんについて、大森さんは「ちょっと大人になった五代さん、クールな五代さんの姿を見ることができて、ディーンさんありがとうと思った」とねぎらっています。

五代さまの退場を見届けたいま、個人的には「あさが来た」の五代さま熱が再び盛り上がっているところ。さっそうとして視野が広く、笑顔がすてきで女性に対する偏見がない。理想の男性と理想の上司をくっつけたような、すごい破壊力だったんですよね。ちょっとしたラブの要素も似合いましたし、ハートフルで躍動的。ヒロインを、恐れず前を歩む「ファースト・ペングィン」だとよく励ましていましたが、あなたもそのファーストペンギンですよというおおらかさが思い出されます。

やはり次は五代さん主人公で見てみたいですね。大森さんによれば、長崎の海軍伝習所時代や、薩摩での捕虜時代など「不思議でおもしろい人生」がまだまだあるそうです。コロナ禍の変則スタートや五輪期間中の中断などで放送回数が通常より少なく(全41話)、「もうちょっと描きたかった」とのこと。受け手としてももう少し見たかったので、いつかぜひお願いします。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)