女優黒木瞳(54)が映画監督に初挑戦することが22日、分かった。作家桂望実氏の小説「嫌な女」を映画化する。原作にほれ込み、映画化を実現するため、自らメガホンをとることを決意した。女優の監督挑戦は国内外でも例が少なく、大胆なチャレンジとして注目される。現在撮影に向けて準備中で来年公開予定。

 小説「嫌な女」に出合ったことが全ての始まりだった。11年3月に友人の勧めで手にした。対照的な性格の女性2人の生きざまが鮮やかに描き出されていた。「人の絆、命のありがたさ、勇気、希望、人生捨てたものじゃないと思わせてくれた感動を、映画でも感じたいと強く思いました」。出版元の光文社に「映画化したい」と熱い思いをしたためた手紙を送った。桂氏の賛同も得て映画化権を獲得した。

 この時点では出演者の1人という予定で、監督、脚本家は自分で探した。「人生のユーモアを書ける」と依頼した脚本家西田征史氏の快諾を得て、台本作りに取りかかったが、監督の選考は難航した。打ち合わせを重ねながら、大胆なプランが浮かんだ。「私が監督するというのはどうだろう」。映画化を発案し、どんな作品にしたいか、誰よりも考えてきた自負もある。そして何より、ほれ込んだ小説を「映画として世に送り出したい」という気持ちが背中を押した。

 熱意は実った。製作、配給がこのほど松竹に決まった。助監督などのメーンスタッフは、「失楽園」などかつての主演映画で現場を共にした旧知の面々がそろい、新人監督を支える態勢が整った。現在も撮影に向けたロケ地探しや美術、衣装、音楽などの打ち合わせを重ねている。「自分の想像以上の演技や表情を見て驚きたいから」と、自分は監督に専念し、出演は見合わせた。主な出演者は後日、正式発表する。

 監督初挑戦が決まり、静かにしまっていた気持ちに気がついた。「私が好きな米女優のジョディ・フォスターが28歳で初監督した映画を見た時、すごく刺激を受けました」。その後、自分が監督をするなど想像したこともなかったが「守りに入らず、リスクをとり、そこから何かを得るのが、自分の生き方ですから」。

 宝塚退団後、目指したのは映画女優。10代のころに見た「風と共に去りぬ」で映画の世界に魅了された。「私は本当に映画が好き。今、映画作りに没頭している中で、初心に戻っています」。飽くなき挑戦心と映画への愛情は来年、スクリーンで花開く。【松田秀彦】

 ◆黒木瞳(くろき・ひとみ)1960年(昭35)10月5日、福岡県生まれ。79年に宝塚音楽学校合格。81年「宝塚春の踊り」で初舞台。82年に大地真央の相手役で「情熱のバルセロナ」で月組トップ娘役に。85年退団。86年「化身」で映画主演デビュー。映画は97年「失楽園」や03年「阿修羅のごとく」、08~09年「20世紀少年」など。91年に結婚、98年に長女出産。

 ◆「嫌な女」 同名小説を桂望実氏が10年に発表。初対面の相手でもたちまち懐に入り込む小谷夏子は生来の詐欺師。遠戚の石田徹子は仕事一筋の堅物の弁護士で、夏子がトラブルを起こすたびに解決に引っぱり出されていく。人生なんてつまらないものと思っていた徹子だが、夏子に翻弄(ほんろう)されながら徐々に変化していく自分に気付いていく。