東北ゆかりのスターたちに生い立ちやターニングポイントを聞く「わたしのツクリカタ」。秋田生まれのタレント壇蜜(35)の後編をお届けします。銀座で働いた経験から得たもの、本当にやりたかった仕事、そして「壇蜜」として今後どう歩んでいくのか、真剣に話をしてくれました。

 大学を卒業して、調理師専門学校に通っているときに1年半、銀座のお店で働きました。お酒は飲めないのに、ホステスのたしなみを身につけたいっていう、おかしな理由で(笑い)。ヘルプといってホステスさんのお手伝いのようなものでしたけど、結構ノルマが厳しいところを紹介してもらいました。

 ヘルプといっても店のイベントの時にはお客様を何人か連れていかないといけないし、罰金もありました。お客様にちょっとでもモノをねだったり、どっかに連れてってよという強引さがあれば、すぐに辞めさせられてしまう環境でした。店のママはやさしくも厳しかった。

 銀座で働いて感じたことは、「張り合いが1個でもあればどこでもやっていけるかも」ということでした。結局、水商売にしろ、今の仕事にしろ、長く続いたお仕事は人からヤンヤ言われないとだめな仕事だったんですよ。君がいないと仕事が回らないんだよ、ということがちょっとでも感じられないとだめなんです。自分で理由を見いだせなくて、ただ働いていたら、あれ、私なんでこの世に生まれたんだっけって(笑い)。

 私、人生は全部、仕事の一環として感じてて。小さいころに孤独が組み込まれてしまって、ひとりでいる時じゃないと「仕事以外の時間」と認識できなくなったんじゃないかと思います。恋人をつくっても、仕事をしていても、仲間と楽しくしゃべっていても、みんな仕事に感じちゃうんですよね。仕事というか、お務め。だから、一番困るのは、今後やりたい仕事がありますかって聞かれることですね。仕事と生きることがくっつきすぎて、考えられないんです。

 本当にやりたかったことがひとつだけありました。お菓子のパッケージとか、お菓子の開発とか、従来のものを段々進化させていく仕事。小中高と意識していましたね。チームを組んで、いろんな人に試供品を食べてもらってデータをとっていく。やみくもにそういう仕事がしたかった。

 子供のころ、お菓子はたらふく食べてました(笑い)。おそらく、お菓子って私の中で、仕事と孤独をつなぐ唯一のものなんですよ。たばこもだめだし、お酒もだめだし、結局お菓子なんです。だから、東ハトのキャラメルコーンのパッケージをデザインした中田選手(サッカー元日本代表の中田英寿氏)、うらやましくてしょうがなかったです。

 今のお仕事もお務め。だから、楽しいと思わないこと、いつも渋い顔をしています、できるだけ。楽しいってものを仕事に求めない。あなたが楽しむことがみんなの活力になる、ていうのはアイドルだけでいいんです。私は…いろんなものを削って、かき氷みたいに削って誰かに与えていく作業に徹すればいいんじゃないかって、35を過ぎたら思うようになりました。その削れた部分にまた雨が降って、水が氷として固まって、また削っていけばいいので。

 もし、20歳くらいに芸能界にデビューしていたら、生きていない気が…(笑い)。精神的にたぶん生きていられないか、もしくはもう忘れてしまっているくらい遠い世界に行ってるかだと思います。昔の方が自己評価が高くて、そのままこういう業界に入っていたら、環境に酔っぱらってしまっていたと思うんですよ。

 酔っぱらいやすいものがたくさん置いてある。それに次から次へと手を出して、気がつけば自分が自分でないようなものに、モンスターみたいになって、抜き差しならない環境になっていたと思います。誘惑は常に自分の欲しいものの形として、隙をつき、やってくるということを知っています。でもたまに負けます。年2回くらい負けます。ふらふら~って特上寿司を頼んだりとか(笑い)。

 これからは、壇蜜として体を張って勝負していい場所っていうのをできるだけはっきり区切る、くりぬくことが自分の務めだと思います。まるで氷にクギでぐるぐる円を描いていくようにじわじわと仕事をして、いつかはくりぬいて向こう側がぽこっと見えるかも知れない…そんな日を目指して。

 生まれただけですが、秋田のことは意識してます。何があっても唇をかんで、寒いも暑いも耐えられる。道ばたで寝てても死にそうになったりしないような環境で育てば、陽気だったり、のんきだったり、天真らんまんさは生まれますけど、寒くて唇から血が出るほど強くかんで耐えるみたいな、自分に痛みを与えて自分を保とうとする。そこが、東北で生まれた人としての強みだって信じています。(終わり)

 ◆壇蜜(だんみつ)1980年(昭55)12月3日生まれ。秋田県で生まれ、東京で育った。本名は齋藤支靜加(さいとう・しずか)。小学校から大学まで女子校に通う。大学卒業後、いくつもの職種を経験し、2010年、29歳でグラビアデビュー。以後、テレビ、映画、文筆業など幅広く活動している。日本舞踊師範、英語教員免許、調理師免許などの資格も持つ。158センチ、血液型O。

(6月30日付 日刊スポーツ東北版掲載)

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